九四―九六
後汝はコスタンツァがその面※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]《かほおほひ》をば舊《もと》の如く慕へる事をピッカルダより聞きたるならむ、さればこれとわが今|茲《こゝ》にいふ事と相反すとみゆ 九七―九九
兄弟よ、人難を免《まぬが》れんため、わが意に背《そむ》き、その爲すべきにあらざることをなしゝ例《ためし》は世に多し 一〇〇―一〇二
アルメオネが父に請《こ》はれて己が生の母を殺し、孝を失はじとて不孝となりしもその一なり 一〇三―一〇五
かゝる場合については、請ふ思へ、暴《あらび》意志とまじりて相共にはたらくがゆゑに、その罪いひのがるゝによしなきことを 一〇六―一〇八
絶對の意志は惡に與《くみ》せず、そのこれに與するは、拒《こば》みてかへつて尚大いなる苦難《なやみ》にあふを恐るゝことの如何に準ず 一〇九―一一一
さればピッカルダはかく語りて絶對の意志を指《さ》し、我は他の意志を指す、ふたりのいふところ倶に眞《まこと》なり。 一一二―一一四
一切の眞理の源なる泉よりいでし聖なる流れかくその波を揚《あ》げ、かくして二の願ひをしづめき 一一五―一一七
我即ち曰ふ。あゝ第一の愛に愛せらるゝ者よ、あゝいと聖なる淑女よ、汝の言《ことば》我を潤《うるほ》し我を暖め、かくして次第に我を生かしむ 一一八―一二〇
されどわが愛深からねば汝の恩惠《めぐみ》に謝するに足らず、願はくは全智全能者これに應《こた》へ給はんことを 一二一―一二三
我よく是を知る、我等の智は、かの眞《まこと》(これより外には眞なる物一だになし)に照らされざれば、飽《あ》くことあらじ 一二四―一二六
智のこれに達するや、あたかも洞の中に野獸《ののけもの》の憩《いこ》ふ如く、直ちにその中にいこふ、またこはこれに達するをう、然らずばいかなる願ひも空ならむ 一二七―一二九
是故に疑ひは眞理の根より芽の如くに生ず、しかしてこは峰より峰にわれらを促し巓《いたゞき》にいたらしむる自然の途なり 一三〇―一三二
淑女よ、この事我を誘ひ我を勵まし、いま一の明らかならざる眞理についてうや/\しく汝に問はしむ 一三三―一三五
請ふ告げよ、人その破れる誓ひの爲、汝等の天秤《はかり》に懸《か》くるも輕からぬほど他の善をもて汝等に贖《あがなひ》をなすことをうるや。 一三六―一三八
ベアトリーチェは愛の光のみち/\しいと聖なる目にて我を見き、さればわが視力《みるちから》これに勝たれで背《うしろ》を見せ 一三九―一四一
我は目を垂《た》れつゝ殆ど我を失へり。 一四二―一四四
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第五曲
われ世に比類《たぐひ》なきまで愛の焔に輝きつゝ汝にあらはれ、汝の目の力に勝つとも 一―三
こは全き視力――その認むるに從つて、認めし善に進み入る――より出づるがゆゑにあやしむなかれ 四―六
われあきらかに知る、見らるゝのみにてたえず愛を燃す永遠《とこしへ》の光、はや汝の智の中にかゞやくを 七―九
もし他の物汝等の愛を迷はさば、こはかの光の名殘がその中に映《さ》し入りて見誤らるゝによるのみ 一〇―一二
汝の知らんと欲するは、果《はた》されざりし誓ひをば人他の務《つとめ》によりて償《つぐの》ひ、魂をして論爭《あらそひ》を免《まぬが》れしむるをうるや否《いな》やといふ事是なり。 一三―一五
ベアトリーチェはかくこの曲《カント》をうたひいで、言葉を斷《た》たざる人のごとく、聖なる教へを續けていふ。 一六―一八
それ神がその裕《ゆたか》なる恩惠《めぐみ》により造りて與へ給へる物にて最もその徳に適《かな》ひかつその最も重んじ給ふ至大の賜《たまもの》は 一九―二一
即ち意志の自由なりき、知慧ある被造物は皆、またかれらに限り、昔これを受け今これを受く 二二―二四
いざ汝|推《お》して知るべし、人|肯《うけが》ひて神また肯ひかくして誓ひ成るならんには、そのいと貴《とほと》きものなることを 二五―二七
そは神と人との間に契約を結ぶにあたりては、わがいふ如く貴きこの寶|犧牲《いけにへ》となり、かつかくなるも己が作用《はたらき》によればなり 二八―三〇
されば何物をもて償《つぐのひ》となすことをえむ、捧げし物を善く用ゐんと思ふは是|※[#「貝+藏」、38−6]物《ぞうぶつ》をもて善事を爲さんとねがふなり 三一―三三
汝既に要點を會得《ゑとく》す、されど聖なる寺院は誓ひより釋《と》き、わが汝にあらはしゝ眞理に背《そむ》くとみゆるがゆゑに 三四―三六
汝なほ食卓《つくゑ》に向ひてしばらく坐すべし、汝のくらへる硬《かた》き食物《くひもの》はその消化《こな》るゝ爲になほ助けを要《もと》むればなり 三七―三九
心を開きて、わが汝に示すものを受け、これをその中に收めよ、聽きて保《たも》たざるは知識をうるの道にあらじ 四〇―四二
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