獄に降りて苦しみをうけざりしさきには、我を裏《つゝ》む喜悦《よろこび》の本《もと》なる至上の善、世にてI《イ》と呼ばれ 一三三―一三五
その後EL《エル》と呼ばれにき、是亦|宜《うべ》なり、そは人の習慣《ならはし》は、さながら枝の上なる葉の、彼散りて此生ずるに似たればなり 一三六―一三八
かの波の上いと高く聳《そび》ゆる山に、罪なくしてまた罪ありてわが住みしは、第一時より、日の象限《しやうげん》を變ふるとともに 一三九―
第六時に次ぐ時までの間なりき。 ―一四四
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   第二十七曲

父に子に聖靈に榮光あれ。天堂|擧《こぞ》りてかく唱《とな》へ、そのうるはしき歌をもて我を醉はしむ 一―三
わが見し物は宇宙の一微笑《ひとゑみ》のごとくなりき、是故にわが醉《ゑひ》耳よりも目よりも入りたり 四―六
あゝ樂しみよ、あゝいひがたき歡びよ、あゝ愛と平和とより成る完《まつた》き生よ、あゝ慾なき恐れなき富よ 七―九
わが目の前には四《よつ》の燈火《ともしび》燃えゐたり、しかして第一に來れるものいよ/\あざやかになり 一〇―一二
かつその姿を改めぬ、木星《ジョーヴェ》もし火星《マルテ》とともに鳥にして羽を交換《とりかは》しなば、またかくの如くなるべし 一三―一五
次序《ついで》と任務《つとめ》とをこゝにて頒《わか》ち與ふる攝理、四方《よも》の聖徒達をしてしづかならしめしとき 一六―一八
わが聞ける言《ことば》にいふ。われ色を變ふと雖も異《あや》しむ莫《なか》れ、そはわが語るを聞きて是等の者みな色を變ふるを汝見るべければなり 一九―二一
わが地位、わが地位、わが地位(神の子の聖前《みまへ》にては今も空《むな》し)を世にて奪ふ者 二二―二四
わが墓所《はかどころ》をば血と穢《けがれ》との溝となせり、是においてか天上より墮《お》ちし悖《もと》れる者も下界に己が心を和らぐ。 二五―二七
是時我は、日と相對《あひむか》ふによりて朝《あした》夕《ゆふべ》に雲を染めなす色の、遍《あまね》く天に漲《みなぎ》るを見たり 二八―三〇
しかしてたとへばしとやかなる淑女が、心に怖《おそ》るゝことなけれど、他人《ひと》の過失《おちど》をたゞ聞くのみにてはぢらふごとく 三一―三三
ベアトリーチェは容貌《かたち》を變へき、思ふに比類《たぐひ》なき威能《ちから》の患《なや》み給ひし時にも、天かく暗くなりしなるべし 三四―三六
かくてピエートロ、容貌《かたち》の變るに劣らざるまでかはれる聲にて、續いて曰ふ 三七―三九
抑※[#二の字点、1−2−22]クリストの新婦《はなよめ》を、わが血及びリーン、クレートの血にてはぐゝめるは、これをして黄金《こがね》をうるの手段《てだて》たらしめん爲ならず 四〇―四二
否《いな》この樂しき生を得ん爲にこそ、シストもピオもカーリストもウルバーノも、多くの苦患《なやみ》の後血を注げるなれ 四三―四五
基督教徒《クリスティアーニ》なる民の一部我等の繼承者《けいしようじや》の右に坐し、その一部左に坐するは、われらの志しゝところにあらじ 四六―四八
我に委《ゆだ》ねられし鑰《かぎ》が、受洗者《じゆせんじや》と戰ふための旗のしるしとなることもまた然《しか》り 四九―五一
我を印の象《かた》となして、贏利虚妄《えいりきよまう》の特典に捺《お》し、われをして屡※[#二の字点、1−2−22]かつ恥ぢかつ憤《おこ》らしむることも亦然り 五二―五四
こゝ天上より眺むれば、牧者の衣を着たる暴《あら》き狼|隨處《いたるところ》の牧場《まきば》に見ゆ、あゝ神の擁護《みまもり》よ、何ぞ今も起《た》たざるや 五五―五七
カオルサ人《びと》等とグアスコニア人等、はや我等の血を飮まんとす、ああ善き始めよ、汝の落行先《おちゆくさき》はいかなる惡しき終りぞや 五八―六〇
されど思ふに、シピオによりローマに世界の榮光を保たしめたる尊き攝理、直ちに助け給ふべし 六一―六三
また子よ、汝は肉體の重さのため再び下界に歸るべければ、口を啓《ひら》け、わが隱さゞる事を隱す莫《なか》れ。 六四―六六
日輪天の磨羯《まかつ》の角《つの》に觸るゝとき、凍《こほ》れる水氣|片《ひら》を成してわが世の空《そら》より降るごとく 六七―六九
我はかの飾れる精氣より、さきにわれらとともにかしこに止まれる凱旋《がいせん》の水氣|片《ひら》をなして昇るを見たり 七〇―七二
わが目はかれらの姿にともなひ、間《あはひ》の大いなるによりさらに先を見るをえざるにいたりてやみぬ 七三―七五
是においてか淑女、わが仰ぎ見ざるを視、我にいふ。目を垂《た》れて汝の※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》れるさまを見るべし。 七六―七八
我見しに、はじめわが見し時より以來《このかた》、我は第一帶の半《なかば
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