W碍障礙】世に及ぼす星の影響をさまたぐるもの
四三―四五
【五百と十と五】註釋者曰。五百と十と五は D X V なり、少しくその位置を變ずれば D V X(即ちラテン語にて導者、首領の義)となる、偉人出でて世の改善をはかるの意と、但し異説多し、また偉人とは何人を指していへるものなるや不明なり
ムーア博士はこの偉人を以てハインリヒ七世に外ならずとし Arrig(c,or k)o よりヘブライ文字の計算法によりて五百十五の數を得べき一の新しき試みをなせり(『ダンテ研究』第三卷二五三頁以下)、ベアトリーチェのこの豫言をばハインリヒ七世に對するダンテの望みをあらはせるものと見做すべき多くの理由あれどもダンテが果してその名をかく數字の上に現はさんとしたりしや疑はし
【盜人】遊女即ち法王。法王の位を奪へるによりてかくいふ(地、一九・五二以下參照)
四六―四八
【テミ】テミス、神話、ウラノスとゲーの間の女にして神託を以て名高し
【スフィンジェ】スピンクス、女面獸身の怪物、テバイの附近に住み謎を以て旅客をなやませるもの
四九―五一
事實は速かに汝をしてわがこの豫言の眞義をさとるをえせしむべし
【ナイアーデ】ナイアデス(ナイアス)泉の女神
スピンクスの謎を解けるはナイアデスにあらずしてライオスの手、即ちテバイ王オイディプスなり、こは謄寫の誤りよりオウィディウスの『メタモルフォセス』(七・七五九)にナイアデスとなりゐたるがダンテの時代にいたりてもなほいまだ訂正せられざりきといふ
【損害】スピンクス謎を解かれて死するやテミスこれがために讎を報いんとて怪獸を放ち、テバイ人の畜類及び田野に損害を與ふ(『メタモルフォセス』七・七六二以下參照)
五五―五七
【二度】最初はアダムに次は鷲に
五八―六〇
【己のためにとて】神の大權の表章として
六一―六三
禁斷の果實を食へるため、人類の始祖アダムはキリスト(即ち十字架上に死してアダムの罪を贖ひたまへる)の降臨を望み待ちつゝ、神を見るをえざる苦と神を見るをうるの願ひの中に五千年餘の歳月を經たり
【五千年餘】地上にあること九百三十年(創世記五・五)、リムボにあること四千三百二年(天、二六・一一八以下)
六四―六六
【うらがへる】淨、三二・四〇―二並びに註參照)
六七―六九
諸※[#二の字点、1−2−22]の空しき思ひによりて汝の心かたくなになり、かゝる思ひより生ずる樂しみによりて汝の智暗むことなかりせば
【エルザ】アルノの支流。その水多くの礦分を含みてよく物の上層を化石すといふ
【ピラーモ】ピュラモス(ピラーモ)の血に桑の染みしごとく(淨、二七・三七―九並びに註參照)汝の智かゝる樂しみに染ますば
七〇―七二
【多くの事柄】汝のしたしく見し種々の出來事
七三―七八
【書きざるも】智暗みてわが言をあきらかに心に書きしるす能はずとも少なくもその形をとゞめて
【巡禮】聖地に旅する巡禮等その記念として棕櫚にて卷ける杖を携へ歸る如く汝もこの地歴程の記念としてわが言を携へ歸れ
八五―八七
【學べるところ】世の學問のいかなるものなるやを自ら知りてその教へのわが教へに遠ざかるを見
八八―九〇
【天】第九の天即ちプリーモ・モービレ。(イザヤ、五五・九參照)
九七―九九
レーテの水を飮むは過去の罪を忘るゝためなり、罪を忘るゝはわするべき罪ある證《あかし》なり
【他に移りし】天上の教へを棄てて世上の教へを求め、聖道を離れて世道を踏めること
一〇〇―一〇二
我今より後わが言葉を明瞭にして汝にさとり易からしめむ。粗き目[#「粗き目」に白丸傍点]は不充分なるさとりの力
一〇三―一〇五
【いよ/\】正午の太陽は光殊に強く※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]轉殊におそしとみゆ
【見る處の】正午即ち太陽の過ぐる子午線の位置は經度の異なるに從つて異なる意か
【亭午の圈】子午線
一〇九―一一一
【仄闇き蔭】林の
一一二―一一四
【エウフラーテスとティーグリ】エウフラテス、チグリス。エデンの園よりいづる四の川の中第四と第三の川の名(創世記、二・一〇以下)
一一八―一二三
【人のごとく】速かに
【告げたり】淨、二八・八八以下
一二四―一二六
他に強く心を惹くものあれば人屡※[#二の字点、1−2−22]記憶の力を失ふ、思ふに彼ダンテもまたかゝるもの(ベアトリーチェの姿及びその詞、木と輦《くるま》に關する種々の不思議なる現象等)の爲に汝が先に教へし事を今思ひ出づる能はざるならむ
一二七―一二九
【エウノエ】〔Eunoe'〕善事を記憶せしむる川にて(淨、二八・一二七以下參照)その名とともにダンテの創意にいづ
【力】己が善行を憶ひ起す力
一三〇―一三一
心たふとくやさしき人は他人の願ひ、言語または擧動によりて外部にあらはるれば言《こと》に托《よ》せてその願ひを辭《いな》まず、直ちにこれを己が願ひとひとしうす
一三九―一四一
【第二の歌】淨火篇
【技巧の手綱】技巧の法則即ち作品各部の間の調和に制限せられて、さらに章を重ぬるをえず
神曲の各篇曲數相同じく(地獄篇の第一曲は神曲全部の總序なり)その句數亦路※[#二の字点、1−2−22]相同じ


 淨火の山は南半球の海中、聖都イエルサレムの反對面にあたりて突出する一圓錐状の高嶺なり、この山三大部に分る、一は海濱より淨火の門に亙る山麓の急坂にして瀕死の際まで悔改めざりしもののとゞまる處(さらに細別して四となす (一)[#「(一)」は縦中横]寺院の破門をうけし者 (二)[#「(二)」は縦中横]怠惰なりし者 (三)[#「(三)」は縦中横]横死せし者 (四)[#「(四)」は縦中横]國事に沒頭して靈の事を省みざりし者) 一は淨火の門よりの巓の附近に亙る山腹にしてこれを圍繞する七個の地帶より成り淨火の最主要部たり、寺院の教義に基づきて分類せる七大罪(傲慢、嫉妬、忿怒、懶惰、貪慾、暴食、邪淫)の淨めらるゝところ、一は山上の平地にして樂園の在る處なり。
 ウェルギリウスはダンテを導いて海濱より登り、たえず右に道をとりつゝ門外の各地及び門内の諸國を歴程して遂に樂園に達し、ベアトリーチェあらはるゝに及びて去る。
 兩詩人がこの南海の孤島を仰ぎてよりダンテがエウノエの水を樂園に飮むにいたるまでに經過せる時間は三晝夜と約七時間なり。



底本:「神曲(中)」岩波文庫、岩波書店
   1953(昭和28)年3月5日第1刷発行
※「神曲」の原文は、三行一組の句を連ねる形式を踏んでいます。底本は訳文の下に、「一」「四」「七」と数字を置いて、原文の句との対応を示していますが、このファイルでは、行末に「一―三」「四―六」「七―九」を置く形をとりました。
※底本が用いている「〔」と「〕」は、「アクセント分解された欧文をかこむ」記号と重なるため、「【」と「】」に置き換えました。
入力:tatsuki
校正:浅原庸子
2004年9月25日公開
2006年5月19日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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