マンフレディの女にして曾祖母と同じく名をコンスタンツェといふ、アラゴン(イスパニア)王ペドロ(ピエートロ)三世の妃となりアルフォンソ、ヤーコモ、フェデリーコの三子を生めり、一二九一年アルフォンソ死して後ヤーコモはアラゴンにフェデリーコはシケリアに王たり(淨、七・一一五以下並びに註參照)
【實】寺院の破門をうけしをもて世の人我を地獄に罰せらると思はば、汝コスタンツァに我の淨火にあるを告げよ
一一八―一二〇
身は戰場に殪れ、魂神のもとに歸れり
一二一―一二三
【されど】神は喜びてすべてそのもとにかへるものをうけいれ給ふ
一二四―一二六
【コセンツァの牧者】コセンツァはイタリアの南カラブリア州にある町の名なり、牧者(コセンツァの大僧正)の誰なりしやはあきらかならず
法王クレメンス四世の命によりてかの大僧正、マンフレディの遺骸をベネヴェント附近なるその墓より掘出しこれをヴェルデの川邊に棄てたりとの説あるによれるなり
【この教へ】原文、この頁。註釋者多くはヨハネ、六・三七を引照す。かの大僧正その頃もしよくこの聖語をさとりたらんには敢てわが遺骨に侮辱を加ふることなかりしなるべし
一二七―一二九
【堆石】シヤルル・ダンジューの兵士等がその遺骸の上に積める小石
一三〇―一三二
【王土】ナポリ王國
【ヴェルデ】ナポリ王國國境の一部を洗ふガリリアーノ川のことなるべしといふ、異説多し
【消せる燈火】普通の葬儀の時と異なり蝋燭に火を點せざるをいふ
一三三―一三五
【縁の一點】植物の全く枯れ果てずして縁なるところあるごとく人未だ死せずして悔いて神に歸るをうべき一縷の望みある間は
【彼等】牧者等
【永遠の愛】神の恩愛再びその人に臨む能はざるにいたることなし
一三六―一四一
寺院に破門せられしものはたとひ悔いて後死すともその破門の中にへし年月の三十倍の間は淨火門外の山麓にとゞまるのみにて罪の淨めをうくるをえず
【善き祈り】世に住む善人彼等のために神に祈れば彼等は三十倍の時過ぎざる先に淨火門内に入ることをう
一四二―一四四
【コスタンツァ】即ちマンフレディの女
【禁制】世人の祈りによらざれば、定まれる時過ぐるまで淨火の門内に入るあたはざること
【悦ばす】わがために善人の祈りを求めて
一四五
【こゝ】淨火全體を指す、善人祈りによりて淨火の靈をたすくるをうとは當時寺院の教へしところなり、この事以下處々にいづ(淨、四・一三〇以下、六・二五以下、一一・三一以下等)
第四曲
詩人等狹き岩間の路をのぼりてとある高臺にいたりその上にいこふ、導者こゝに日の左よりいづる所以をダンテに説きあかし、後共に一巨岩に近づきて多くの魂をそのうしろに見る、即ち怠惰のため死に臨みてはじめて悔改めし魂なり、彼等の一ベラックワ、ダンテとかたりこれに己が境遇を告ぐ
一―六
喜び又は悲しみ等の強き刺激をうけて魂心の能力の一(即ち喜び又は悲しみを感ずる)に集まれば他の能力のはたらきすべて止むに似たり、さればプラトン學派の唱ふる如く人に多くの魂ありとなすは誤りなり、そをいかにといふにもし魂多からば一の魂一方に集まるとも他の魂よく他方を顧みるをうればなり
一〇―一二
單なる視聽の能力は強き刺激をうけて魂を獨占する能力と異なる、後者にありてはその能力刺激を與ふるものに固定し(繋がる)て活動の自由を失へども前者にありてはしからず
一三―一八
【かの靈】マンフレディの
【五十度】日の登ること一時間に十五度なれば今は日出後三時二十分即ち年前九時過なり
一九―二四
【たゞ一束】原文、たゞ一熊手
葡萄熟する頃農夫垣根の孔を塞ぎて盜人の入るを防ぐなり
二五―二七
【サンレオ】ウルビーノ市(中部イタリア)附近の小さき町にて嶮しき山の上にあり
【ノーリ】西リヴィエーラ(淨、三・四九―五一註參照)の中サーヴォナとアルベンガの間にある小さき町にて絶壁の下にあり
【ビスマントヴァ】エミリア州レッジオ地方の嶮山の名
二八―三〇
【わが光となりし】理性の光によりてわが行路を照らせる
こゝを登らんとするものはわがなせる如く信頼すべき導者に從ひ徳に進まむとの深き願ひをその羽翼として飛ばざるべからず
三一―三三
【崖】原文、端。即ち左右の岩の縁《ふち》
三四―三六
【高き陵】山の下方を指す
【上縁】岩間の狹路盡くるところ
三七―三九
【枉ぐる】歩を左右に轉ずる
四〇―四二
【象限の中央の線】原文、半象限より中心(圓の)にいたる線。即ち四十五度の角度
四六―四八
【バルツォ】balzo 岩石の山腹より突出せる處。詩人等の目の及ぶかぎり一帶をなして山を圍繞せり
四九―五一
【圓】即ちバルツォ
五五―五七
【あやしめり】わが世界にては東に向ふ人日が右の方(即ち南の方)にかたよるを見る例なればなり
五八―六〇
【光の車】太陽
【アクイロネ】北の風。こゝにては北を指す
六一―六三
【若し】もし太陽雙兒宮にありて
【カストレとポルルーチェ】カストルとポリュデウケース。ゼウスとレダの間の二子。化して宿星(雙兒宮の)となれりといふ
【鏡】太陽。光を南北半球におくる
六四―六六
【舊き道】黄道。太陽もし地球の周圍を囘轉するにあたりて其年毎の軌道を誤ることなくば
【赤き】太陽その中にあるがゆゑに
太陽もし雙兒宮にあらばそのめぐるところは今よりもなほ北にあたる、これ雙兒宮の星は白羊宮(太陽現にこゝにあり)の星よりさらに北にあるによりてなり
六七―七五
【シオン】イエルサレム
イエルサレムと淨火の山とは地球の正反對面にあり、面して前者は夏至線以北に後者は冬至線以南にあるがゆゑに東に向ふ人前者にては日を右に後者にては日を左に見るなり
【天涯を同じうし】淨、二・一―三註參照
【フェートン】フェトンテ。地、一七・一〇六以下並びに註參照
【路】黄道
【此、彼】此は淨火の山、彼は聖都
七九―八一
【さる學術】天文學
【日と冬の間】冬期北半球にては太陽冬至線若しくはその附近にあるが故に赤道は冬の世界と太陽の間にあり、南半球冬期に入れば太陽夏至線若しくはその附近にあるが故に赤道は冬の淨火と太陽の間にあるなり
【中帶】運行する諸天の中の最も高きもの即ち第九天の中帶
八二―八四
淨火の島とその北なる赤道の間の距離は聖都とその南なる赤道の間の距離に等し
【希伯來人《エブレオびと》】古、ヘブライ人がイエルサレムを中心としてパレスチナにのみ居住せる頃をいへるなるべし
八八―九〇
徳の路は入り難しといへども進むに從つて易し
九七―九九
【それよりさき】山の頂即ち疲れを休むるところに達せざるさき
一〇三―一〇五
【群】怠惰のため死に臨むまで悔改めざりし人の魂
一一二―一一四
【目を】不精のため目のみを動かして顏をあげざるなり
【汝は】汝はわがごとく不精の兄弟にあらざれば
一二一―一二六
【ベラックヮ】フィレンツェの樂器製造者、ダンテと相識の間柄なりしこと本文によりて知らる
【憂へず】救ひの道にあれば
【習慣】生前の怠惰なる慣習
一二七―一二九
【神の鳥】淨火の門を守る天使(啓、九・七六以下)
【苛責】門内にてうくる淨めの苛責
一三〇―一三二
【善き歎息】罪を悔ゆる
【天はまづ】淨火の門内に入るの前、我はまづその門外にて我の世に享けし齡と同じ年月を過さざるをえず
一三三―一三五
若し世に住む善人わがために神に祈らばそれよりさきに門内に入りて罪を淨むることをうれども(淨、三・一三六以下參照)
一三六―一三九
【日】時正午なれば太陽中天にあり
【岸邊】ガンジスの(淨、二・四以下參照)
【モロッコ】アフリカの西北端の國。イスパニアのシヴィリアと同じく北半球の西端を指すに用ふ
淨火の正午は聖都の夜半、モロッコの夕にあたる
第五曲
詩人等なほ少しく登り進みて他の一群の魂にあふ、こは皆横死し、しかして死に臨むまでその罪を悔いざりし者なり、彼等のうちみたりヤーコポ・デル・カッセロ、ブオンコンテ・ダ・モンテフェルトロ及びピーア、ダンテとかたる
四―六
【左】東を背にして登るがゆゑに今は日右にあり(淨、四・五二以下參照)影左に落つ
七―九
【碎けし】影のため(淨、三・八八以下參照)
一〇―一二
【心ひかれ】原文、魂とらはれ。怠惰者の言《ことば》に心ひかるゝなり
一六―一八
思ひ多ければ專なる能はず、ダンテかの魂の言にその心をとむる時は登山の念さまたげられて時空しく過ぐるの恐れあり
二二―二四
【横方より】兩詩人は山を登り魂等はその腰をめぐるがゆゑに
【かはる/″\】a verso a verso 群集二部にわかれてその一部最初の一節をうたひ終れば他の一部第二節をうたひかくして漸次にうたひつぎ歌ひ終るなり
【憐みたまへ】Miserere 詩篇第五一篇をうたへるなり
二五―二七
【あゝ】驚きとあやしみをあらはす
三四―三六
【益を】ダンテ世に歸りて後善人に請ひて彼等のために祈らしむれば
三七―三九
【光】原文、燃ゆる氣體。初更の頃の流星または夏の夕の電光
五二―五四
【横死】戰ひ(ブオンコンテ)、私怨(ヤーコポ)、家庭の悲劇(ピーア)等
【天の光】神恩の光
五五―五七
【赦しつゝ】人を(マタイ、六・一四)
六一―六三
【平和】天堂の幸福
六四―六六
【一者】ヤーコポ・デル・カッセロ。
ファーノ(地、二八・七六―八一註參照)の名族、一二九六年より翌七年までボローニアのポデスタたり此間フェルラーラの侯爵エスティ家のアッツオ八世の怨みを買ふ、一二九八年ミラーノのポデスタとなりエスティ家の領地を過ぐるなからんためまづ海路を取りてヴェネツィアにいたる、しかしてこゝよりパードヴァ人の地を過ぎてその任地に赴かんとしオリアーゴの附近に達するに及びアッツオの命を受けし者の要撃するところとなりて死す
【助け】原文、恩惠。ダンテが彼等の親戚知己に乞ひて彼等のために祈らしむること
【もし力】若し已むを得ざる理由ありて汝の好意も果す能はざるにいたらずば
六七―六九
【間の國】マルカ・ダンコナ。ローマニアとナポリ王國の間にあり、後者は當時シヤルル・ダンジュー二世の治めしところ
七〇―七二
【ファーノ】マルカ・ダンコナにある町
【淨むる】はやく淨火の門内に入りて
七三―七五
【我の宿れる血】我ヤーコポの魂のやどれる血、わが肉體を生かしめし血
レビ記一七・一一に曰。肉の生命は血にあり
【アンテノリ】パードヴァ人。トロイア人アンテノールの子孫なりとの傳説あるによれり、アンテノリの懷といふはバードヴァ人の領地内といふに同じ
七六―七八
【安全】敵地を距たること遠ければ(六四―六行註參照)
【エスティの者】エスティ家のアッツオ八世
七九―八一
【オリアーコ】(オリアーゴ)パードヴァとヴェネツイアの間にある村
【ラ・ミーラ】オリアーコの附近にてブレンタ川に通ずる運河の一の岸にある村
【我は】我は今も世に生きながらふることをえたりしなるべし
八五―八七
【汝の願ひ】平安を得るの望み(六一―三行參照)
【わが願ひ】門内にて罪を淨むるの願ひ
八八―九〇
【ボンコンテ】ブオンコンテ、地、二七に見えしグイード・ダ・モンテフェルトロの子。アレッツオのギベルリニ黨の爲に屡※[#二の字点、1−2−22]戰場に臨み一二八九年六月カムパルディーノの戰ひに死す
【モンテフェルトロ】地、二七・二八―三〇並びに註參照
【ジヨヴァンナ】ブオンコンテの妻。世に殘れるわが妻もその他の親戚も一人としてわが事を思ふものなし
九一―九三
【カムパルディーノ】カセンティーノ(地、三〇・六四―六註參照)なるアルノの溪の一部ビビエーナ附近の平原。一二八九年六月アレッツオのギベルリニ黨フィレンツェのグエルフィ黨とこゝに戰ひて敗る
ダンテは當時フィレンツェ騎兵の中にありてこの戰ひに與かれりとの説あり(地、二二・四―九註參照)、若しこの説にして信ずべくんば彼はブオンコンテの討死せしこと及びその遺骸の戰場に見出されざりしこと等をその頃委しく知りえたるなるべし
九四―九六
【隱家】カマルドリの僧院をいふ、こは十一世紀の初めの頃聖ロムアルド(一〇二七死)の開基
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