下)
【マルチア】カトーの妻(『コンヴィヴィオ』四、二八・九七以下參照)リムボにあり(地、四・一二八)
八二―八四
【七の國】淨火の七圈
八五―八七
【世に】原文、かなたに。以下この例多し、一々註せず
八八―九〇
【禍ひの川】アケロンテ(地、三・七〇以下參照)
【かしこを出し】リムボを出し
スカルタッツィニ曰。カトーの死はキリスト(クリスト)の死より早きこと約八十年なり、而してキリストの地獄を訪はざりしさきには人の魂救はれしことなし(地、四・六三)さればカトーもまた多くの魂とともにリムボにありて救ひの日即ち權威ある者の地獄に來る日を待てるなるべし
【律法】救はれし者は地獄に罰をうくるもののためにその心を動かすをえず(ルカ、一六・二六參照)
九四―九六
【齎】罪を淨むるにあたりて最も主要の徳なる謙遜のしるし
【汚穢】地獄の空氣よりうけし
九七―九九
【霧】地獄の
【最初の使者】淨火の門を守る天使(淨、九・七六以下)
一〇三―一〇五
【打たれて】浪に。藺はよく屈折して打つ浪に逆はざるが故に水際に生を保てども他の草木は然らず
謙遜の人は心を屈して神に從ふがゆゑによく刑罰に耐へてその罪を淨むるをうれども、この徳は有せざる人はしからず
一一二―一一四
【端】水際
【後に】詩人等北極の方に向ひてカトーを見、後うしろにむかひて海濱にいたる、知るべし彼等のはじめ島の南方にあらはれしを
一一五―一一七
【朝の時】l'ora mattutina 曉の前、明方《あけがた》近き夜の時をいふ。殘りの闇曉に追はれて逃げゆき、海のさゞ波みゆるなり
或日。ora は微風なり、日出前の微風黎明に追はれて海原遠く小波をたゝふるをいふと
一二一―一二三
【日と戰ひ】長く日の光に耐ふるをいふ
一二七―一二九
【涙】地獄にて流せる
【色】本來の色。ウェルギリウスは地獄の惡氣のために汚れしダンテの顏を露にて洗ひ、再びもとの色にかへせり
一三〇―一三二
【歸りしことなき】地、二六・一三九―四一並びに註參照
一三三―一三六
【かの翁】原文、他の者(altrui)
【再び】穗は頒つによりて減ずることなし


    第二曲

詩人等なほ汀に立てるに、ひとりの天使船をあやつりて岸に着き一群の魂を置きて去る、ダンテの友カセルラこの魂の中にあり、請はれて戀歌をうたふ、衆その聲のうるはしきにめで、とゞまりてこれに耳を傾け、つひにカトーの戒めを受く
一―三
四月十日午前六時に近き頃即ち淨火の朝イエルサレム(ゼレサレムメ)の夕、イスパニアの晝、インドの夜なり
【天涯】イエルサレムは北半球の子午線のいと高き處にあり(地、三四・一一二―七註參照)、しかして淨火はイエルサレムの反對面にあるが故にその地平線は即ち聖都の地平線と同じ
四―六
【夜】夜(即ち夜半)は日と反對の天にあり(地、二四・一―三註參照)而して日は此時白羊宮にあるがゆゑに夜はその反對面の天宮即ち天秤宮にあり、日の登るに從つて夜はインドなるガンジスの河口を去り、次第に西に向ふ
【その手より落つ】秋分にいたれば日天秤宮に入る、これ故に天秤夜の手を離るといへり、秋分以降夜は次第に晝より長し
七―九
【アウローラ】エオス、明方《あけがた》の空色を朝の女神と見做せるなり。この色始め白く後赤く日出づるに及びて橙黄色となる、恰も女神の老ゆるにつれてその頬の色變るに似たり
一〇―一二
【路のことをおもひて】路定かならざるため
一三―一五
【濃き霧】火星の赤色に濃淡あるはこれを蔽ふ水氣の厚薄によるといふこと『コンヴィヴィオ』二、一四・一六一以下に見ゆ
一六―一八
【光】天使
【あゝ我】死後救はるゝものの群に入りて再びこの光を見るをえんことを
二二―二四
【白き物】光の左右の白き物は天使の翼下方の白き物はその衣なり
三一―三三
【隔たれる】テーヴェレ(テーヴェル・テーヴェロ)の河口(一〇〇―一〇二行並びに註參照)と淨火の島の間の如く遠くへだたれる
三四―三六
【朽つべき毛】鳥の羽等
三七―三九
【神の鳥】天使。翼あるによりて鳥といふ
四三―四五
【福その】parea beato per iscripto 消えざる福その姿にあらはる
異本。〔fari`a beato pur descritto〕 その姿振舞いと尊ければ彼を見ずともたゞそのありさまを聞くのみにて人福をえんとの意
四六―四八
【イスラエル】詩篇一一四の初めにあり、イスラエルの族エヂプトを出で奴隷の境界を脱して神の自由民となれりとの聖經の歴史には魂罪の絆を離れ榮光かぎりなき自由を得るの意含まるゝがゆゑに(『コンヴィヴィオ』三、一・五二以下及びダンテがカン・グランデ・デルラ・スカーラに與ふる書一四九行以下參照)新たに來れる魂等特にこの聖歌をうたへるなり
五五―五七
【磨羯】白羊宮地平線上にある時磨羯宮は中天にあり、白羊宮の太陽次第に登るに從ひ磨羯宮は中天より次第に西方に傾きはじむ
六七―六九
【呼吸】地、二三・八八參照
七〇―七二
【橄欖】橄欖の枝は古へ平和のしるしとして用ゐしものなりしがダンテの時代にては平和勝利等おしなべて吉報を齎らす使者これを手にする例なりきといふ
七三―七五
【美しくする】罪を淨むる
七六―七八
【ひとり】カセルラ。ダンテの親友にして歌を善くす、傳不詳
七九―八一
【三度】『アエネイス』(六・七〇〇以下)にアエネアス冥府にくだりて父アンキセスの魂にあひ三度これを抱かんとせることいづ、その一節に曰く
抱けどかひなし父の姿はたゞ輕き風かりそめの夢にひとしく三度《みたび》その手をはなれたり
八八―九〇
【紲】肉體の
九一―九三
【再び】この旅路の教訓に基づきて徳の生涯を送り、死後救ひを得て魂再びこの處に歸らんため
【かく多く時を】汝の死せるは久しき以前のことなるに今漸くこゝに來れるは何故ぞや
異本、「かく大いなる國」(即ち淨火)とあり、意の歸する所同じ
九四―九六
【もの】載すべき時を定め載すべき魂をえらびてこれを船に載せ淨火の島に送る天使
九七―九九
【正しき意】天意
【三月の間】法王ボニファキウス八世の令旨の中なる大赦の初めの日、即ち一二九九年のキリスト降誕祭より(地、一八・二八―三〇註參照)一三〇〇年四月十日まで三箇月餘の間をいふ。大赦の恩惠に浴するもの悉く天使の船に乘るをうるなり
テーヴェレの河口に集まる魂皆船に乘るをうれども生前の徳不徳によりてその乘るに先後あり、さればカセルラも屡※[#二の字点、1−2−22]天使に拒まれて空しく時をすごせるうちジユビレーオの年いたりて特に渡海を許されしなり
一〇〇―一〇二
【テーヴェロ】ローマを過ぐる著名の川なればローマの寺院を代表す、地獄に下らざるもの萬國よりこの河口にあつまるといへるは寺院が救はるゝ魂を神と結びて淨めの途につかしむるを示せるなり
一〇三―一〇五
【アケロンテ】地獄の川(地、三・七〇以下)
一〇六―一〇八
【律法】境遇の變化にともなひて新たなる天の律法のもとにおかれ、そのため昔の技能をあらはす能はざるにあらずば
一一二―一一四
【わが心の中に】Amor che ne la mente mi ragiona ダンテの歌集にある歌の始めの一行なり、『コンヴィヴィオ』第三篇にこの歌の解釋いづ、古註にはカセルラこれが譜を作れりといへり
一一八―一二〇
【翁】カトー
一二一―一二三
【穢】scoglio 蛇の皮魚の鱗等のごとく魂をつゝむ罪の汚れ
一二七―一二九
【まさる願ひ】危きを避くるの願ひ食を求むるの願ひに勝ちて


    第三曲

詩人等やがて山の麓にいたれるに岩石高くして登るをえざればかなたより歩み來れる一群の靈を迎へてこれに路を問ひその教へをきく、彼等の一なるマンフレディ己が身の上をダンテにあかし且つ寺院に背きて死せるものの刑罰をうくるさまを述ぶ
一―三
【理性】理性の聲人をはげまして淨めの道に就かしむ
或日。ragion は神の正義なり fruga は懲すなり、神の正義淨火の山に人を懲すをいふと
四―六
【伴侶】ウェルギリウス
七―九
【みづから】船より下れる魂等はカトーの戒めをききて悔い、ウェルギリウスは自ら省みて悔ゆ
一〇―一二
【狹まれる】カセルラの事及びカトーの戒めにのみその思ひの集中せるをいふ
一三―一五
【求むる】こゝにては處のさまを知るを願ふこと
一九―二一
【棄てられし】ウェルギリウスに。ダンテはウェルギリウスの靈にして影なきを思はず、己獨りを殘して去れるにあらずやと疑へるなり
二五―二七
【夕】淨火の午前六時過はイエルサレムの午後六時過にあたる、イタリアは聖都とイスパニアの中央にあればこの時既に夕(午後三時過)なり(淨、一五・一―六註參照)
【ブランディツィオ】ブルンディジウム、ブリンディシ。イタリアの南アドリアティコ海濱の町
紀元前一九年ヴェルギリウス、ブルンディジウムに死す、皇帝オクタウィアヌス・アウグストゥス命を下してその遺骸をナポリに移し厚くこゝにこれを葬る
二八―三〇
【光を堰かざる】諸天は透明なれば一天より出る光他の天のためにせかるゝことなし
三一―三三
【威力】神の
【かゝる】わが體《からだ》の如く影もなき
【されど】神の大能のいかなるさまにはたらくやは人知らず
三四―三六
若し人智をもて神のきはみなきみわざを知り盡しうべしとおもふ者あらば
三七―三九
【事を事として】al quia(〔=che'〕)たゞ事物の事物たるを知りて何故に然るやを究めんとせざるをいふ
【マリアは子を】キリストの出現によりて人はじめて天啓をうくるに及ばざりしなるべし
四〇―四二
リムボにとゞまる聖賢の如く一切を知るの願ひを果すに最も適せる人々すら世にその願ひを成就するにいたらず、今や却つて望みなき願ひのために(地、四・四二)永遠の憂ひをいだく
四三―四五
【アリストーテレ、プラトー】アリストテレス、プラトン。倶にリムボにあり(地、四・一三一―二及び一三四)
【思ひなやみて】ウェルギリウスも彼等と境遇を同じうすればなり(地、四・三七―九參照)
四九―五一
【レリーチェとツルビア】レリーチェはスペチア灣(ゼノーヴァの東南)に臨める古城、ツルビアはフランス領ニースに近き町。この兩地の間はほゞリグーリアの海濱といふに同じく、東西リヴィエーラに分たれ、連山高くゼーノヴァ灣上に突出す
五八―六〇
【一群の魂】悔い改めて世を去れるも寺院と和することをせざりし者
【おそく】救ひに入るのおそきを表示す
六四―六六
【望み】路を聞くをうるの望み
七〇―七二
【岸】山側
【動かず】道行く人、物におそれてその足をとゞむる如く魂等は詩人等が彼等に路を問はんとて左に進みいづるを見、その淨火の通則に反するをあやしみてとゞまれるなり
滅亡《ほろび》の路は常に左にむかひ(地、九・一三〇―三二註參照)救ひの路は常に右にむかふ
七三―七五
【福に終れる】神と和して死せる
【選ばれし】えらばれて救ひの路にある
七六―七八
【知ること】路を知らずして歩めば時を失ふ、しかして人はその智進むに從つていよ/\時の重んずべきを知る
八八―九〇
【右に】詩人等路を問はんとて左にむかへるがゆゑに山右に、日左にあり
九七―九九
【壁】山の嶮なるをいへり
一〇三―一〇五
【ひとり】マンフレディ。皇帝フリートリヒ二世の庶子、一二三一年の頃シケリアに生れ一二五八年より同六六年までナポリ及びシケリアに王たり、ローマの寺院その放逸を惡みこれと相敵視すること久し、法王クレメンス四世、フランス王聖ルイの弟なるシャルル・ダンジューを招きてこれにマンフレディの領地を與ふることを約す、一二六六年一月シヤルル、ナポリ王國を攻む、マンフレディ敗れ、同年二月ベネヴェントの戰ひに死す(地二八・一三―八註參照)
一一二―一一四
【コスタンツァ】コンスタンツェ。皇帝ハインリヒ六世の妃にしてフリートリヒ二世の母なり(天、三・一一八―二〇並びに註參照)。マンフレディは庶子なればこゝに父の名をいはずして祖母の名ないへるなり
一一五―一一七
【名譽の母】王位に登れる者の母
【女】
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