_う[#「饑う」に白丸傍点]を第六圈の頌詠とせり、またこゝにては暴食の罪に適合せしめんため此句を自由に敷衍せるなり(淨、二二・四―六註參照)


    第二十五曲

階を踏みて登る道すがら、スタティウスはウェルギリウスの請ひに應じてダンテのために生殖の作用、靈肉の結合、及び死後における靈の状態を論じ、かくて相共に第七圈に達すれば色慾の罪を淨むる一群の魂焔に包まれつゝ聖歌をうたひ且つ貞節の例を誦《ず》す
一―三
【日は】白羊宮にある太陽既に傾きて子午線を離れ金牛宮の星これに代る、金牛宮は白羊宮に次ぐ天の十二宮の一なれば時は今午後(四月十二日)二時の頃なりと知るべし
【夜】日と反對の天に於ては天秤宮にある夜(淨、二・四―六註參照)イエルサレムの子午線を離れ天秤に次ぐ天の十二宮の一なる天蠍宮の星これに代る(即ち午前二時の頃)
一三―一五
【消え】詩人等を累はすことを恐るゝため
一九―二一
【滋養を】肉體の榮養をうくる必要なき魂(第六圈の)の痩するをあやしみてかくいへり
二二―二四
【メレアグロ】メレアグロス。カリュドン王オイネウスとアルタイアの間の子、その生れし時運命の三神一木片を火に投じ、生兒の命數この木とともに盡くべしといひて去れり、アルタイア直ちに火を消してかの木片を祕藏せしかどメレアグロス成人の後二人の叔父を殺せしかば再びこれを火に投じてその兄弟のために仇を返せり(オウィディウスの『メタモルフォセス』八―二六〇以下參照)。榮養以外に人身を左右するの力あるをいふ
二五―二七
見ゆる魂は見えざる魂の鏡なるをいふ。硬[#「硬」に白丸傍点]きは解し難きなり軟[#「軟」に白丸傍点]きは解し易きなり
二八―三〇
【望むがまゝに】或ひは、汝の望みに關して
【傷を癒さしむ】疑ひを解かしむ。人の靈性の状態を論ずるは教理に關することなればウェルギリウスはこれをもてキリスト教徒の詩人スタティウスに委ぬるを善しとせり
三一―三三
【常世の状態】la veduta etterna 死後における魂の状態
異本、la vedetta etterna(永遠の刑罰、若くは永遠の存在者即神の刑罰)
三七―三九
【完全】完全なる血は情液となる血をいふ。榮養に必要なる血の如くに血脈を循環せざるもの
四三―四五
【自然の器】子宮。こゝにて女性の血液と合す
四六―四八
【堪ふる】作用《はたらき》を受くる(男の血の)
【行ふ】作用を與ふる(女の血に)。出る處[#「出る處」に白丸傍点]は心臟なり
五二―五四
この一聯及び以下の各聯に於てダンテはトマス・アクィナス(天、一〇・九七―九註參照)の神學大全(Summa Theologica)の説に基づきスタティウスの口を藉りて胎子の植物性(成長)より動物性(感觸)に進みさらに人間性(理智)に到達する次第を陳ぶ
【活動の力】男性の血の中なる
【異なるところ】草木の魂は生育を限度としてそれ以上に進む能はざれども人間の魂はさらに進んで他の性を備ふ、前者は既に發達の彼岸に達し後者はなほその道程にあり
五五―五七
【海の菌】海中の下等動物。動物性の初期に於てはその物未だ各種の官能を具備するにいたらずしてたゞ動き且つ感ずるのみ
五八―六〇
血が心臟内に得たる肢體構成の力は今や既に弘がりて胎兒の各部各機官に及ぶ
六一―六三
【人間】fante(物言ふ者の義)理性を備ふる者
【さとかりし者】註釋者曰、ダンテはこゝにアヴェルロエス(地、四・一四四)を指してかくいへりと
六四―六六
視るに目あり聽くに耳あるごとく理性に特殊の機官あるにあらざるがゆゑに彼此理性を人の魂より分散したり、されど個性を備へずして普遍に存在する理性人の生るゝと共にこれと合ひ人の死するとともにこれと離るゝものなりとせばこれ死後個人の魂の存在するを認めざるに等し
【靜智】possibile intelletto
アリストテレス(アヴェルロエスの註による)の區分せる智に二あり、一を靜智(intelletto passivo)一を動智(intelletto attivo)といふ、人は靜智即ち所謂possibile intellettoによりて外部の印象を受け動智によりて件の印象を理解し諸※[#二の字点、1−2−22]の觀念を構成するにいたる、動智は分離す非情にして不死なり、靜智は死滅す而して動智を缺くを許さず。その言に曰く、眞の智は分散の智なり、この智獨り永久不死なりと。アヴェルロエスこの説によりて謂へらく、動智は分たれず個性なし、その個人と合するは輔助的にして補成的に非ずと、こは實に個人の魂の不滅を否定するに近し、ダンテは誤りてアヴェルロエス靜智を魂より分散せりと思へるに似たり、アヴェルロエスの離合を云々せるはまことは動智のことなるを(ノルトン)
七〇―七二
【發動者】神。植物動
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