ものを、巧みに睡りを現はす者にあらざればこの事望み難きがゆゑに ―六九
わがめさめし時にたゞちにうつりて語るらく、とある光の煌《きらめき》と起きよ汝何を爲すやとよばはる聲とはわが睡りの幕を裂きたり 七〇―七二
林檎(諸※[#二の字点、1−2−22]の天使をしてその果《み》をしきりに求めしめ無窮の婚筵を天にいとなむ)の小さき花を見んため 七三―七五
ピエートロとジヨヴァンニとヤーコポと導かれて氣を失ひ、さらに大いなる睡りを破れる言葉をきゝて我にかへりて 七六―七八
その侶の減りたる――モイゼもエリアもあらざれば――とその師の衣の變りたるとをみしごとく 七九―八一
我もまた我にかへりてかの慈悲深き淑女、さきに流れに沿ひてわが歩履《あゆみ》をみちびけるもののわがほとりに立てるを見 八二―八四
いたくあやしみていひけるは。ベアトリーチェはいづこにありや。彼。新しき木葉《このは》の下にてその根の上に坐するを見よ 八五―八七
彼をかこめる組《くみ》をみよ、他はみないよ/\うるはしき奧深き歌をうたひつゝグリフォネの後《あと》より昇る。 八八―九〇
我は彼のなほかたれるや否やをしらず、そはわが心を塞ぎてほかにむかはしめざりし女既にわが目に入りたればなり 九一―九三
彼はかの二樣の獸の繋げる輦《くるま》をまもらんとてかしこに殘るもののごとくひとり眞《まこと》の地の上に坐し 九四―九六
七のニンフェは北風《アクイロネ》も南風《アウストロ》も消すあたはざる光を手にし、彼のまはりに身をもてまろき圍《かこひ》をつくれり 九七―九九
汝はこゝに少時《しばらく》林の人となり、その後かぎりなく我と倶にかのローマ即ちクリストをローマ|人《びと》の中にかぞふる都の民のひとりとなるべし 一〇〇―一〇二
さればもとれる世を益せんため、目を今|輦《くるま》にとめよ、しかして汝の見ることをかなたに歸るにおよびて記《しる》せ。 一〇三―一〇五
ベアトリーチェ斯く、また我はつゝしみてその命に從はんとのみ思ひゐたれば、心をも目をもその求むるところにむけたり 一〇六―一〇八
いと遠きところより雨の落つるとき、濃き雲の中より火の降るはやしといへども 一〇九―一一一
わが見しジョーヴェの鳥に及ばじ、この鳥木をわけ舞ひくだりて花と新しき葉と皮とをくだき 一一二―一一四
またその力を極めて輦《くるま》を打てば、輦はゆらぎてさながら嵐の中なる船の、浪にゆすられ、忽ち右舷忽ち左舷に傾くに似たりき 一一五―一一七
我また見しにすべての良き食物《くひもの》に饑うとみゆる一匹の牝狐かの凱旋車の車内にかけいりぬ 一一八―一二〇
されどわが淑女はその穢《けがら》はしき罪を責めてこれを逐ひ、肉なき骨のこれに許すかぎりわしらしむ 一二一―一二三
我また見しにかの鷲はじめのごとく舞下りて車の匣《はこ》の内に入り己が羽をかしこに散《ちら》して飛去りぬ 一二四―一二六
この時なやめる心よりいづるごとき聲天よりいでていひけるは。ああわが小舟《をぶね》よ、汝の積める荷はいかにあしきかな。 一二七―一二九
次にはわれ輪と輪の間の地ひらくがごときをおぼえ、またその中より一の龍のいで來るをみたり、この者尾をあげて輦《くるま》を刺し 一三〇―一三二
やがて螫《はり》を收むる蜂のごとくその魔性の尾を引縮め車底の一部を引出《ひきいだ》して紆曲《うね》りつつ去りゆけり 一三三―一三五
殘れる物は肥えたる土の草におけるがごとく羽(おそらくは健全《すこやか》にして厚き志よりさゝげられたる)に 一三六―一三八
おほはれ、左右の輪及び轅《ながえ》もまたたゞちに――その早きこと一の歎息《ためいき》の口を開く間にまされり――これにおほはる 一三九―一四一
さてかく變りて後この聖なる建物《たてもの》その處々《ところ/″\》より頭を出せり、即ち轅よりは三、稜《かど》よりはみな一を出せり 一四二―一四四
前の三には牡牛のごとき角あれども後の四には額に一の角あるのみ、げにかく寄《くす》しき物かつてあらはれし例《ためし》なし 一四五―一四七
その上には高山《たかやま》の上の城のごとく安らかに坐し、しきりにあたりをみまはしゐたるひとりのしまりなき遊女《あそびめ》ありき 一四八―一五〇
我また見しにあたかもかの女の奪ひ去らるゝを防ぐがごとく、ひとりの巨人その傍に立ちてしば/\これと接吻《くちづけ》したり 一五一―一五三
されど女がその定まらずみだりなる目を我にむくるや、かの心猛き馴染《なじみ》頭より足にいたるまでこれを策《むちう》ち 一五四―一五六
かくて嫉みと怒りにたへかね、異形《いぎやう》の物を釋き放ちて林の奧に曳入るれば、たゞこの林|盾《たて》となりて 一五七―一五九
遊女《あそびめ》も奇《くす》しき獸も見えざりき 一六〇―一六二
[#改ページ]
前へ 次へ
全99ページ中50ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ダンテ アリギエリ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング