〇二
さて空氣は、若しその※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《まは》ることいづこにか妨げられずば、こと/″\く第一の囘轉とともに圓を成してめぐるがゆゑに 一〇三―一〇五
かゝる動き、純なる空氣の中にありて全く絆《ほだし》なやこの高嶺《たかね》を撃ち、林に聲を生ぜしむ、これその繁きによりてなり 一〇六―一〇八
また撃たれし草木《くさき》にはその性《さが》を風に滿たすの力あり、この風その後吹きめぐりてこれをあたりに散らし 一〇九―一一一
かなたの地は己が特質と天の利にしたがひて孕み、性《さが》異なる諸※[#二の字点、1−2−22]の木を生む 一一二―一一四
かゝればわがこの言《ことば》を聞く者、たとひ見ゆべき種なきにかしこに萌えいづる草木を見るとも、世の不思議とみなすに足らず 一一五―一一七
汝知るべし、この聖なる廣野《ひろの》には一切の種滿ち、かの世に摘むをえざる果《み》のあることを 一一八―一二〇
また汝の今見る水は、漲《みなぎ》り涸《か》るゝ河のごとくに、冷えて凝れる水氣の補《おぎな》ふ脈より流れいづるにあらず 一二一―一二三
變らず盡きざる泉よりいづ、而して泉は神の聖旨《みむね》によりて、その二方の口よりそゝぐものをば再び得《う》 一二四―一二六
こなたには罪の記憶を奪ふ力をもちてくだりゆき、かなたには諸※[#二の字点、1−2−22]の善行《よきおこなひ》を憶ひ起さしむ 一二七―一二九
こなたなるはレーテと呼ばれ、かなたなるをエウノエといふ、この二の水まづ味はれざればその功徳《くどく》なし 一三〇―一三二
こは他《ほか》の凡ての味《あぢはひ》にまさる、我またさらに汝に教ふることをせずとも、汝の渇《かわき》はや全くやみたるならむ、されど 一三三―一三五
己が好《このみ》にまかせてなほ一の事を加へむ、思ふにわが言《ことば》たとひ約束の外にいづとも汝の喜びに變りはあらじ 一三六―一三八
いにしへ黄金《こがね》の代《よ》とその幸《さち》多きさまを詩となせる人々、恐らくはパルナーゾにて夢にこの處を見しならむ 一三九―一四一
こゝに罪なくして人住みぬ、こゝにとこしへの春とすべての實《み》あり、彼等の所謂ネッタレは是なり。 一四二―一四四
我はこの時身を後方《うしろ》にめぐらしてわがふたりの詩人にむかひ、彼等が笑を含みつゝこの終りの言をきけるを見 一四五―一四七
後ふたゝび目をかの美しき淑女にむけたり 一四八―一五〇
[#改ページ]
第二十九曲
彼かたりをはれるとき、戀する女のごとく歌ひて、罪をおほはるゝものは福なり[#「罪をおほはるゝものは福なり」に白丸傍点]といひ 一―三
かくてたとへばひとりは日を見ひとりはこれを避けんとて林の蔭をあゆみゆきしさびしきニンファの群《むれ》のごとくに 四―六
岸をつたひ流れにさかのぼりて進み、また我はわが歩みを細《こまか》にしてそのこまかなる歩みにあはせ、これと相並びて行けり 七―九
ふたりの足數合せて百とならざるさきに、岸兩つながら等しくその方向《むき》を變へたれば、我は再び東にむかへり 一〇―一二
またかくしてゆくことなほ未だ遠からざりしに、淑女全くわが方にむかひて、わが兄弟よ、視よ、耳を傾けよといふ 一三―一五
このとき忽ち一の光かの大なる林の四方に流れ、我をして電光《いなづま》なるかと疑はしめき 一六―一八
されど電光はその現はるゝごとく消ゆれど、この光は長くつゞきていよ/\輝きわたりたれば、我わが心の中に是何物ぞやといふ 一九―二一
また一のうるはしき聲あかるき空をわけて流れぬ、是に於てか我は正しき憤りよりエーヴァの膽の大《ふと》きを責めたり 二二―二四
彼は造られていまだ程なきたゞひとりの女なるに、天地《あめつち》神に遵《したが》へるころ、被物《おほひ》の下に、しのびてとゞまることをせざりき
彼その下に信心深くとゞまりたりせば、我は早くまた永くこのいひがたき樂しみを味へるなるべし 二八―三〇
かぎりなき樂しみの初穗かく豐かなるに心奪はれ、たゞいよ/\大いなる喜びをうるをねがひつゝ、我その間を歩みゐたるに 三一―三三
我等の前にて縁の技の下なる空氣燃ゆる火のごとくかゞやき、かのうるはしき音《おと》今は歌となりて聞えぬ 三四―三六
あゝげに聖なる處女《をとめ》等よ、我汝等のために饑ゑ、寒さ、または眠りをしのびしことあらば、今その報《むくい》を請はざるをえず 三七―三九
いざエリコナよわがためにそゝげ、ウラーニアよ、歌の侶とともに我をたすけて、おもふだに難き事をば詩となさしめよ 四〇―四二
さてその少しく先にあたりてあらはれし物あり、我等と是とはなほ離るゝこと遠かりければ、誤りて七の黄金《こがね》の木と見えぬ 四三―四五
されど相似て官能を欺く物その時性の一をも距離《へだゝり》
前へ
次へ
全99ページ中44ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ダンテ アリギエリ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング