四三―四五
かくて彼我よりさきに火の中に入り、またこの時にいたるまでながく我等の間をわかてるスターツィオに請ひて我等の後《あと》より來らしむ 四六―四八
我火の中に入りしとき、その燃ゆることかぎりなく劇しければ、煮え立つ玻璃の中になりとも身を投入れて冷《ひや》さんとおもへり 四九―五一
わがやさしき父は我をはげまさんとて、ベアトリーチェの事をのみ語りてすゝみ、我既に彼の目を見るごとくおぼゆといふ 五二―五四
かなたにうたへる一の聲我等を導けり、我等はこれにのみ心をとめつゝ登るべきところにいでぬ 五五―五七
わが父に惠まるゝ者よ來れ[#「わが父に惠まるゝ者よ來れ」に白丸傍点]。かしこにありてわが目をまばゆうし我に見るをえざらしめたる一の光の中にかくいふ聲す 五八―六〇
またいふ。日は入り夕《ゆふべ》が來る、とゞまるなかれ、西の暗くならざる間に足をはやめよ。 六一―六三
路直く岩を穿ちて東の方に上《のぼ》るがゆゑに、すでに低き日の光を我はわが前より奪へり 六四―六六
しかしてわが影消ゆるを見て我もわが聖等《ひじりたち》も我等の後方《うしろ》に日の沈むをしりたる時は、我等の試みし段《きだ》なほ未だ多からざりき 六七―六九
はてしなく濶《ひろ》き天涯未だ擧《こぞ》りて一の色とならず、夜その闇をことごとく頒ち與へざるまに 七〇―七二
我等各一の段《きだ》を床となしぬ、そはこの山の性《さが》、登るの願ひよりもその力を我等より奪へばなり 七三―七五
食物《くひもの》をえざるさきには峰の上に馳せ狂へる山羊も、日のいと熱き間蔭にやすみて聲をもいださず 七六―
その牧者(彼杖にもたれ、もたれつゝその群《むれ》を牧《か》ふ)にまもられておとなしく倒嚼《にれが》むことあり ―八一
また外《そと》に宿る牧人、そのしづかなる群のあたりに夜を過《すご》して、野の獸のこれを散らすを防ぐことあり 八二―八四
我等みたりもまたみな斯《かく》の如くなりき、我は山羊に彼等は牧者に似たり、しかして高き岩左右より我等をかこめり 八五―八七
外《そと》はたゞ少しく見ゆるのみなりしかど、我はこの少許《すこし》の處に、常よりも燦《あざや》かにしてかつ大なる星を見き 八八―九〇
我かく倒嚼《にれが》み、かく星をながめつゝ睡りに襲はる、即ち事をそのいまだ出來《いでこ》ぬさきにに屡※[#二の字点、1−2−22]告知らす睡りなり 九一―九三
たえず愛の火に燃ゆとみゆるチテレアがはじめてその光を東の方よりこの山にそゝぐ頃かとおもはる 九四―九六
我は夢に、若き美しきひとりの淑女の、花を摘みつゝ野を分けゆくを見しごとくなりき、かの者うたひていふ 九七―九九
わが名を問ふ者あらば知るべし、我はリーアなり、我わがために一の花圈《はなかざり》を編まんとて美しき手を動かして行く 一〇〇―一〇二
鏡にむかひて自ら喜ぶことをえんため我こゝにわが身を飾り、わが妹ラケールは終日《ひねもす》坐してその鏡を離れず 一〇三―一〇五
われ手をもてわが身を飾るをねがふごとくに彼その美しき目を見るをねがふ、見ること彼の、行ふこと我の心を足《たら》はす。 一〇六―一〇八
異郷の旅より歸る人の、わが家《や》にちかく宿るにしたがひ、いよ/\愛《め》づる曉《あかつき》の光 一〇九―一一一
はや四方より闇を逐ひ、闇とともにわが睡りを逐へり、我即ち身を起《おこ》せば、ふたりの大いなる師この時既に起きゐたり 一一二―一一四
げに多くの枝によりて人のしきりに尋ね求むる甘き果《み》は今日汝の饑《う》ゑをしづめむ。 一一五―一一七
ヴィルジリオかく我にいへり、またこれらの語《ことば》のごとく心に適《かな》ふ賜《たまもの》はあらじ 一一八―一二〇
わが登るの願ひ願ひに加はり、我はこの後一足毎に羽|生《は》えいでて我に飛ばしむるをおぼえき 一二一―一二三
我等|階《きざはし》をこと/″\く渡り終りて最高《いとたか》き段《きだ》の上に立ちしとき、ヴィルジリオ我にその目をそゝぎて 一二四―一二六
いふ。子よ、汝既に一時《ひととき》の火と永久《とこしへ》の火とを見てわが自から知らざるところに來れるなり 一二七―一二九
われ智《さとり》と術《わざ》をもて汝をこゝにみちびけり、今より汝は好む所を導者となすべし、汝|嶮《けは》しき路を出で狹き路をはなる 一三〇―一三二
汝の額を照す日を見よ、地のおのづからこゝに生ずる若草と花と木とを見よ 一三三―一三五
涙を流して汝の許に我を遣はせし美しき目のよろこびて來るまで、汝坐するもよし、これらの間を行くもよし 一三六―一三八
わが言《ことば》をも表示《しるし》をもこの後望み待つことなかれ、汝の意志は自由にして直く健全《すこやか》なればそのむかふがまゝに行はざれば誤らむ 一三九―一四一
是故にわれ冠と帽を汝に
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