、かの尊《たふと》き民|手背《てのおもて》をもて示して曰ふ。さらば身をめぐらして先に進め。 一〇〇―一〇二
またそのひとりいふ。汝誰なりとも、かく歩みつゝ顏をこなたにむけて、世に我を見しことありや否やをおもへ。 一〇三―一〇五
我即ちかなたにむかひ、目を定めて彼を見しに、黄金《こがね》の髮あり、美しくして姿けだかし、されど一の傷ありてその眉の一を分てり 一〇六―一〇八
我謙《へりく》だりていまだみしことなしとつぐれば、彼はいざ見よといひてその胸の上のかたなる一の疵を我に示せり 一〇九―一一一
かくてほゝゑみていふ。我は皇妃コスタンツァの孫マンフレディなり、此故にわれ汝に請ふ、汝歸るの日 一一二―一一四
シチーリアとアラーゴナの名譽《ほまれ》の母なるわが美しき女《むすめ》のもとにゆき、世の風評《さた》違はば實《まこと》を告げよ 一一五―一一七
わが身二の重傷《いたで》のために碎けしとき、われは泣きつゝ、かのよろこびて罪を赦したまふものにかへれり 一一八―一二〇
恐しかりきわが罪は、されどかぎりなき恩寵《めぐみ》そのいと大いなる腕《かひな》をもて、すべてこれに歸るものをうく 一二一―一二三
クレメンテに唆《そその》かされて我を狩りたるコセンツァの牧者、その頃神の聖經《みふみ》の中によくこの教へを讀みたりしならば 一二四―一二六
わが體《からだ》の骨は、今も重き堆石《つみいし》に護られ、ベネヴェントに近き橋のたもとにありしなるべし 一二七―一二九
さるを今は王土の外《そと》ヴェルデの岸邊《きしべ》に雨に洗はれ風に搖《ゆす》らる、彼|消《け》せる燈火《ともしび》をもてこれをかしこに移せるなり 一三〇―一三二
それ望みに緑の一點をとゞむる間は、人彼等の詛ひによりて全く滅び永遠《とこしへ》の愛歸るをえざるにいたることなし 一三三―一三五
されどげに聖なる寺院の命に悖《もと》りて死する者、たとひつひに悔ゆといへども、その僭越なりし間の三十倍の時過ぐるまで 一三六―一三八
必ず外《そと》なるこの岸にとゞまる、もし善き祈りによりて時の短くせらるゝにあらずば 一三九―一四一
請ふわが好《よ》きコスタンツァに汝の我にあへる次第とこの禁制《いましめ》とをうちあかし、汝がこの後我を悦ばすをうるや否やを見よ 一四二―一四四
そはこゝにては、世にある者の助けによりて、我等の得るところ大なればなり。 一四五―一四七
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第四曲
心の作用《はたらき》の一部喜びまたは憂ひを感ずる深ければ、魂こと/″\こゝにあつまり 一―三
また他の能力《ちから》をかへりみることなしとみゆ、知るべし、我等の内部《うち》に燃ゆる魂、一のみならじと思ふは即ち誤りなることを 四―六
この故に聞くこと見るもの、つよく魂をひきよすれば、人時の過ぐるを知らず 七―九
そは耳をとゞむる能力《ちから》は魂を全く占《し》むる能力《ちから》と異なる、後者はその状《さま》繋《つな》がるゝに等しく前者には紲《きづな》なし 一〇―一二
我かの靈のいふところをきき且つはおどろきてしたしくこの事の眞《まこと》なるをさとれり、そは我等かの魂等が我等にむかひ 一三―
聲をあはせて、汝等の尋ぬるものこゝにありと叫べる處にいたれる時、日はわがしらざる間に裕《ゆたか》に五十を上《のぼ》りたればなり ―一八
葡萄黒むころ、たゞ一|束《たば》の茨《いばら》をもて、村人《むらびと》の圍《かこ》ふ孔《あな》といふとも、かの群《むれ》我等をはなれし後 一九―
導者さきに我あとにたゞふたり登りゆきし徑路《こみち》よりは間々《まま》大いなるべし ―二四
サンレオにゆき、ノーリにくだり、ビスマントヴァを登りてその頂にいたるにもただ足あれば足る、されどこゝにては飛ばざるをえずと 二五―二七
即ち我に望みを與へ、わが光となりし導者にしたがひ、疾き翼深き願ひの羽を用ゐて 二八―三〇
我等は碎けし岩の間を登れり、崖《がけ》左右より我等に迫り、下なる地は手と足の助けを求めき 三一―三三
我等高き陵《をか》の上縁《うはべり》、山の腰のひらけしところにいたれるとき、我いふ。わが師よ、我等いづれの路をえらばむ。 三四―三六
彼我に。汝一歩をも枉ぐるなかれ、さとき嚮導《しるべ》の我等にあらはるゝことあるまで、たえず我に從ひて山を登れ。 三七―三九
巓《いただき》は高くして視力及ばず、また山腹は象限《しやうげん》の中央《なかば》の線《すぢ》よりはるかに急なり 四〇―四二
我疲れて曰ふ。あゝやさしき父よ、ふりかへりて我を見よ、汝若しとゞまらずば、我ひとりあとに殘るにいたらむ。 四三―四五
わが子よ、身をこの處まで曳き來れ。彼は少しく上方《うへ》にあたりて山のこなたをことごとくめぐれる一の高臺《パルツオ》を指示しつゝかくいへり 四六―四
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