にいたれば、導者曰ひけるは、止まれ 七三―七五
しかしてこなたなる幸なく世に出でし者の面《おもて》を汝にむけしめよ、彼等は我等と方向《むき》を等しうせるをもて汝未だ顏を見ず 七六―七八
我等古き橋より見しに片側《かたがは》を歩みて我等のかたに來れる群ありてまたおなじく鞭に逐はれき 七九―八一
善き師問はざるに我に曰ひけるは、かの大いなる者の來るを見よ、いかに苦しむとも彼は涙を流さじとみゆ 八二―八四
あゝいかなる王者の姿ぞやいまなほ彼に殘れるは、彼はヤーソンとて智と勇とによりてコルコ人《びと》より牡羊を奪へる者なり 八五―八七
レンノの島の膽太《きもふと》き慈悲なき女等すべての男を殺し盡せし事ありし後、彼かしこを過ぎ 八八―九〇
さきに島人を欺きたりし處女《おとめ》イシフィーレを智と甘《あま》きことばをもてあざむき 九一―九三
その孕むにおよびてひとりこれをこゝに棄てたり、この罪彼を責めてこの苦をうけしめ、メデーアの怨みまた報いらる 九四―九六
すべて斯の如く欺く者皆彼と共にゆくなり、さて第一の溪とその牙に罹るものをしる事之をもて我等足れりとなさん 九七―九九
我等は此時細路第二の堤と交叉し之を次の弓門《アルコ》の橋脚《はしぐひ》となせるところにいたれるに 一〇〇―一〇二
次の嚢《ボルジヤ》の民の呻吟《うめ》く聲、あらき氣息《いき》、また掌《たなごゝろ》にて身をうつ音きこえぬ 一〇三―一〇五
たちのぼる惡氣岸に粘《つ》き、黴《かび》となりてこれをおほひ、目を攻めまた鼻を攻む 一〇六―一〇八
底は深く窪みたれば石橋のいと高き處なる弓門《アルコ》の頂に登らではいづこにゆくもわきがたし 一〇九―一一一
我等すなはちこゝにいたりて見下《みおろ》せるに、濠の中には民ありて糞《ふん》に浸《ひた》れり、こは人の厠より流れしものゝごとくなりき 一一二―一一四
われ目をもてかなたをうかゞふ間、そのひとり頭いたく糞によごれて緇素を判《わか》ち難きものを見き 一一五―一一七
彼我を責めて曰ひけるは、汝何ぞ穢れし我|侶《とも》を措きて我をのみかく貪り見るや、我彼に、他に非ずわが記憶に誤りなくば 一一八―一二〇
我は汝を髮乾ける日に見しことあり、汝はルッカのアレッショ・インテルミネイなり、この故にわれ特《こと》に目を汝にとゞむ 一二一―一二三
この時|頂《いたゞき》を打ちて彼、我をかく深く沈めしものは諂《へつらひ》なりき、わが舌これに飽きしことなければなり 一二四―一二六
こゝに導者我に曰ひけるは、さらに少しく前を望み、身穢れ髮亂れかしこに不淨の爪もて 一二七―一二九
おのが身を掻《か》きたちまちうづくまりたちまち立ついやしき女の顏を見よ 一三〇―一三二
これ遊女《あそびめ》タイデなり、いたく心に適《かな》へりやと問へる馴染《なじみ》の客に答へて、げにあやしくとこそといへるはかれなりき 一三三―一三五
さて我等の目これをもて足れりとすべし 一三六―一三八
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   第十九曲

あゝシモン・マーゴよ、幸なき從者《ずさ》等よ、汝等は貪りて金銀のために、徳の新婦《はなよめ》となるべき 一―三
神の物を穢れしむ、今|喇叭《らつぱ》は汝等のために吹かるべし、汝等第三の嚢《ボルジヤ》にあればなり 四―六
我等はこの時石橋の次の頂《いたゞき》まさしく濠の眞中《まなか》にあたれるところに登れり 七―九
あゝ比類《たぐひ》なき智慧よ、天に地にまた禍ひの世に示す汝の技《わざ》は大いなるかな、汝の權威《ちから》の頒《わか》ち與ふるさまは公平なるかな 一〇―一二
こゝに我見しに側《かは》にも底にも黒める石一面に穴ありて大きさ皆同じくかついづれも圓《まろ》かりき 一三―一五
思ふにこれらは授洗者《じゆせんじや》の場所としてわが美しき聖ジョヴァンニの中に造られしもの(未だ幾年《いくとせ》ならぬさき我その一を碎けることあり 一六―一八
こはこの中にて息絶えんとせし者ありし爲なりき、さればこの言《ことば》證《あかし》となりて人の誤りを解け)より狹くも大きくもあらざりしなるべし 一九―二一
いづれの穴の口よりも、ひとりの罪ある者の足およびその脛腓《はぎこむら》まであらはれ、ほかはみな内にあり 二二―二四
二の蹠《あしうら》火に燃えて關節《つがひめ》これがために震ひ動き、そのはげしさは綱《つな》をも組緒《くみを》をも斷切るばかりなりき 二五―二七
油ひきたる物燃ゆれば炎はたゞその表面《おもて》をのみ駛するを常とす、かの踵《くびす》より尖《さき》にいたるまでまた斯くの如くなりき 二八―三〇
我曰ふ、師よ、同囚《なかま》の誰よりも劇しく振り動かして怒りをあらはし猛き炎に舐《ねぶ》らるる者は誰ぞや 三一―三三
彼我に、わが汝をいだいて岸の低きをくだるを願はゞ汝は彼によりて彼と彼の
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