をはなるゝを覺え、善からぬ路にむかふよと父よばゝれる時の恐れといへども
身は四方大氣につゝまれ萬象消えてたゞかの獸のみあるを見し時のわが恐れにはまさらじ ―一一四
いとゆるやかに泳ぎつゝ彼進み、めぐりまたくだれり、されど顏にあたり下より來る風によらでは我之を知るをえざりき 一一五―一一七
我は既に右にあたりて我等の下に淵の恐るべき響きを成すを聞きしかば、すなはち目を低れて項《うなじ》をのぶるに 一一八―一二〇
火見え歎きの聲きこえ、この斷崖《きりぎし》のさまいよ/\おそろしく、我はわなゝきつゝかたく我身をひきしめき 一二一―一二三
我またこの時四方より近づく多くの大いなる禍ひによりてわがさきに見ざりし降下《くだり》と廻轉《めぐり》とを見たり 一二四―一二六
ながく翼を驅りてしかも呼ばれず鳥も見ず、あゝ汝下るよと鷹匠《たかづかひ》にいはるゝ鷹の 一二七―一二九
さきにいさみて舞ひたてるところに今は疲れて百《もゝ》の輪をゑがいてくだり、その飼主を遠く離れ、あなどりいかりて身をおくごとく 一三〇―一三二
ジェーリオネは我等を削れる岩の下《もと》なる底におき、荷なるふたりをおろしをはれば 一三三―一三五
弦《つる》をはなるゝ矢の如く消えぬ 一三六―一三八
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第十八曲
地獄にマーレボルジェといふところあり、その周圍《まはり》を卷く圈の如くすべて石より成りてその色鐡に似たり 一―三
この魔性の廣野《ひろの》の正中《たゞなか》にはいと大いなるいと深き一の坎《あな》ありて口をひらけり、その構造《なりたち》をばわれその處にいたりていはむ 四―六
されど坎と高き堅き岸の下《もと》との間に殘る處は圓くその底十の溪にわかたる 七―九
これ等の溪はその形たとへば石垣を護らんため城を繞りていと多くの濠ある處のさまに似たり 一〇―一二
またかゝる要害には閾より外濠《そとぼり》の岸にいたるまで多くの小さき橋あるごとく 一三―一五
數ある石橋《いしばし》岩根より出で、堤《つゝみ》と濠をよこぎりて坎にいたれば、坎はこれを斷ちこれを集めぬ 一六―一八
ジェーリオンの背より拂はれし時我等はこの處にありき、詩人左にむかひてゆき我はその後《うしろ》を歩めり 一九―二一
右を見れば新《あらた》なる憂ひ、新なる苛責、新なる撻者《うちて》第一の嚢《ボルジヤ》に滿てり 二二―二四
底には裸なる罪人等ありき、中央《なかば》よりこなたなるは我等にむかひて來り、かなたなるは我等と同じ方向《むき》にゆけどもその足はやし 二五―二七
さながらジュビレーオの年、群集《ぐんじゆ》大いなるによりてローマ人《びと》等民の爲に橋を渡るの手段《てだて》をまうけ 二八―三〇
片側《かたがは》なるはみな顏を城《カステルロ》にむけてサント・ピエートロにゆき、片側なるは山にむかひて行くごとくなりき 三一―三三
黯《くろず》める岩の上には、かなたこなたに角ある鬼の大なる鞭を持つありてあら/\しく彼等を後《うしろ》より打てり 三四―三六
あはれ始めの一撃《ひとうち》にて踵《くびす》を擧げし彼等の姿よ、二撃《ふたうち》三撃《みうち》を待つ者はげにひとりだにあらざりき 三七―三九
さて歩みゆく間、ひとりわが目にとまれるものありき、我はたゞちに我嘗て彼を見しことなきにあらずといひ 四〇―四二
すなはち定かに認《したゝ》めんとて足をとむれば、やさしき導者もともに止まり、わが少しく後《あと》に戻るを肯ひたまへり 四三―四五
この時かの策《むちう》たるゝもの顏を垂れて己を匿さんとせしかども及ばず、我曰ひけるは、目を地に投ぐる者よ 四六―四八
その姿に詐りなくば汝はヴェネディーコ・カッチヤネミーコなり、汝を導いてこの辛《から》きサルセに下せるものは何ぞや 四九―五一
彼我に、語るも本意《ほい》なし、されど明かなる汝の言《ことば》我に昔の世をしのばしめ我を強ふ 五二―五四
我は侯《マルケーゼ》の心に從はしめんとてギソラベルラをいざなひし者なりき(この不徳の物語いかに世に傳へらるとも) 五五―五七
さてまたこゝに歎くボローニア人《びと》は我身のみかは、彼等この處に滿つれば、今サヴェーナとレーノの間に 五八―六〇
シパといひならふ舌もなほその數これに及びがたし、若しこの事の徴《しるし》、證《あかし》をほしと思はゞたゞ慾深き我等の胸を思ひいづべし 六一―六三
かく語れる時一の鬼その鞭をあげてこれを打ちいひけるは、去れ判人《ぜげん》、こゝには騙《たら》すべき女なし 六四―六六
我わが導者にともなへり、かくて數歩にして我等は一の石橋の岸より出でし處にいたり 六七―六九
いとやすく之に上《のぼ》りて破岩をわたり右にむかひ此等の永久《とこしへ》の圈を離れき 七〇―七二
橋下空しくひらけて打たるゝ者に路をえさするところ
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