直く立つ却つて多くこれによれり 一〇九―一一一
黄金《こがね》の外はいづこにも罅《さけめ》生じて涙したゝり、あつまりてかの窟《いはや》を穿ち 一一二―一一四
岩また岩を傳はりてこの溪に入り、アケロンテ、スティージェ、フレジェトンタとなり、その後この狹き溝によりて落ち 一一五―一一七
またくだるあたはざる處にいたりてそこにコチートと成る、この池の何なるやは汝見るべし、この故にこゝに語らず 一一八―一二〇
我彼に、若しこの細流かくわが世より出でなば何故にこの縁《へり》にのみあらはるゝや 一二一―一二三
彼我に、汝此處のまろきを知る、汝の來る遠しといへども常に左に向ひて底にくだるが故に 一二四―一二六
未だあまねく獄をめぐらず、されば新しきもの我等にあらはるとも何ぞあやしみを汝の顏に見するに足らむ 一二七―一二九
我また、師よ、フレジェトンタとレーテはいづこにありや、汝|默《もだ》してその一のことをいはず、また一は此雨より成るといへり 一三〇―一三二
彼答へて曰ひけるは、汝問ふところの事みなよくわが心に適ふ、されど、煮ゆる紅《くれなゐ》の水はよく汝の問の一に答へん 一三三―一三五
レーテは汝見るをうべし、されどこの濠《ほり》の外《そと》、罪悔によりて除かれし時魂等己を洗はんとて行く處にあり 一三六―一三八
又曰ひけるは、いまは森を離るべき時なり、汝我に從へ、燃えざる縁《ふち》路を造り 一三九―一四一
一切の炎その上に消ゆ 一四二―一四四
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   第十五曲

堅き縁《ふち》の一は今我等を負《お》ひゆけり、小川の烟はおほひかゝりて水と堤とを火より救へり 一―三
グイッツァンテとブルッジアの間なるフィアンドラ人《びと》こなたに寄せくる潮《うしほ》を恐れ海を走らしめんため水際《みぎは》をかため 四―六
またはブレンタの邊《ほとり》なるパードヴァ人キアレンターナの熱に觸れざる間にその邑《まち》その城を護らんためまたしかするごとく 七―九
この堤は築かれき、たゞ築けるもの(誰にてもあれ)之をかく高くかく厚くなさゞりしのみ 一〇―一二
我等既に林を離るゝこと遠くわれ後《うしろ》を顧みれどもそのいづこにあるやを見るをえざりしころ 一三―一五
我等は堤に沿ひて來れる一群《ひとむれ》の魂にいであへり、さながら夕間暮れ新月《にひづき》のもとに人の人を見る如く 一六―
彼等みな我等を見、また老いたる縫物師《ぬひものし》の針眼《はりのめ》にむかふごとく目を鋭くして我等にむかへり ―二一
かゝる族《やから》にかくうちまもられ我はそのひとりにさとられき、彼わが裾をとらへ叫びて何等の不思議ぞといふ 二二―二四
彼その腕《かひな》を我にむかひてのべし時、われ目を燒けし姿にとむるに、顏のたゞれもなほわが智《さとり》を妨げて 二五―
彼を忘れしむるにはたらざりき、われわが顏を彼の顏のあたりに低れて、セル・ブルネットよ、こゝにゐ給ふやと答ふ ―三〇
彼、わが子よ、ねがはくはブルネット・ラティーニしばらく汝と共にあとにかへりてこの群《むれ》をさきに行かしめん 三一―三三
我彼にいふ、これわが最も希ふところなり、汝またわが汝と共に坐《すわ》らん事を願ひその事彼の心に適はゞしかすべし、我彼と共に行けばなり 三四―三六
彼曰ふ、あゝ子よ、この群の中|縱《たと》ひ束の間なりとも止まる者あればその者そののち身を横たゆる百年《もゝとせ》に及び火これを撃つとも扇ぐによしなし 三七―三九
されば行け、我は汝の衣につきてゆき、永劫の罰を歎きつゝゆくわが伴侶《なかま》にほどへて再び加はるべし 四〇―四二
我は路をくだり彼とならびてゆくを得ず、たゞうや/\しく歩む人の如くたえずわが頭《かうべ》を低れぬ 四三―四五
彼曰ふ、終焉《をはり》の日未だ至らざるに汝をこゝに導くは何の運何の定《ぢやう》ぞや、また道を教ふるこの者は誰ぞや 四六―四八
我答へて彼に曰ふ、明《あか》き上の世に、わが齡未だ滿たざるに、我一の溪の中に迷へり 四九―五一
わが背《そびら》を之にむけしはたゞ昨日《きのふ》の朝の事なり、この者かしこに戻らんとする我にあらはれ、かくてこの路により我を導いて我家《わがや》に歸らしむ 五二―五四
彼我に、美しき世にてわが量れること違はずば汝おのが星に從はんに榮光の湊を失ふあたはず 五五―五七
またわが死かく早からざりせば天かく汝に福《さいはひ》するをみて我は汝の爲すところをはげませしなるべし 五八―六〇
されど古《いにしへ》、フィエソレを下りいまなほ山と岩とを含める恩を忘れしさがなき人々 六一―六三
汝の善き行ひの爲に却つて汝の仇とならむ、是亦宜なり、そは酸きソルボに混《まじ》りて甘き無花果の實を結ぶは適《ふさ》はしき事に非ざればなり 六四―六六
彼等は世の古き名によりて盲《めし
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