しろ》に寄せたり 七―九
我は既に魂等全く掩《おほ》ひ塞《ふさ》がれ玻璃の中なる藁屑《わらくづ》の如く見え透《す》ける處にゐたり(これを詩となすだに恐ろし) 一〇―一二
伏したる者あり、頭を上にまたは蹠《あしうら》を上にむけて立てる者あり、また弓の如く顏を足元《あしもと》に垂れたる者ありき 一三―一五
我等遠く進みし時、わが師は昔姿美しかりし者を我にみすべき機《おり》いたれるをみ 一六―一八
わが前をさけて我にとゞまらせ、見よディーテを、また見よ雄々《をゝ》しさをもて汝を固《かた》むべきこの處をといふ 一九―二一
この時我身いかばかり冷《ひ》えわが心いかばかり挫《くじ》けしや、讀者よ問ふ勿れ、言《ことば》及ばざるがゆゑに我これを記《しる》さじ 二二―二四
我は死せるにもあらずまた生けるにもあらざりき、汝|些《すこし》の理解《さとり》だにあらば請ふ今自ら思へ、彼をも此をも共に失へるわが當時のさまを 二五―二七
悲しみの王土の帝《みかど》その胸の半《なかば》まで氷の外《そと》にあらはれぬ、巨人をその腕に比ぶるよりは 二八―
我を巨人に比ぶるかたなほ易し、その一部だにかくのごとくば之に適《かな》へる全身のいと大いなること知りぬべし ―三三
彼今の醜《みにく》きに應じて昔美しくしかもその造主《つくりぬし》にむかひて眉を上げし事あらば一切の禍ひ彼よりいづるも故なきにあらず 三四―三六
我その頭に三の顏あるを見るにおよびてげに驚けることいかばかりぞや、一は前にありて赤く 三七―三九
殘る二は左右の肩の正中《たゞなか》の上にてこれと連《つらな》り、かつ三ともに※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]冠《とさか》あるところにて合へり 四〇―四二
右なるは白と黄の間の色の如く、左なるはニーロの水上《みなかみ》より來る人々の如くみえき 四三―四五
また顏の下よりはかゝる鳥ににつかしき二《ふたつ》の大いなる翼いでたり、げにかく大いなるものをば我未だ海の帆にも見ず 四六―四八
此等みな羽なくその構造《つくりざま》蝙蝠《かうもり》の翼に似たり、また彼此等を搏ち、三の風彼より起れり 四九―五一
コチートの悉く凍れるもこれによりてなりき、彼は六の眼《まなこ》にて泣き、涙と血の涎《よだれ》とは三の頤《おとがひ》をつたひて滴《したゝ》れり 五二―五四
また口毎にひとりの罪人《つみびと》を齒にて碎くこと碎麻機《あさほぐし》の如く、かくしてみたりの者をなやめき 五五―五七
わけて前なる者は爪にかけられ、その背しば/\皮なきにいたれり、これにくらぶれば噛まるゝは物の數ならじ 五八―六〇
師曰ふ、高くかしこにありてその罰最も重き魂はジユダ・スカリオットなり、彼頭を内にし脛を外に振る 六一―六三
頭さがれるふたりのうち、黒き顏より垂るゝはプルートなり、そのもがきて言《ことば》なきを見よ 六四―六六
また身いちじるしく肥ゆとみゆるはカッシオなり、されど夜はまた來れり、我等すでにすべてのものを見たればいざゆかん 六七―六九
我彼の意に從ひてその頸を抱けるに彼はほどよき時と處をはかり、翼のひろくひらかれしとき 七〇―七二
毛深き腋に縋《すが》り、叢《むら》また叢をつたはりて濃き毛と氷層のあひだをくだれり 七三―七五
かくて我等股の曲際《まがりめ》腰の太《ふと》やかなるところにいたれば導者は疲れて呼吸《いき》もくるしく 七六―七八
さきに脛をおけるところに頭をむけて毛をにぎり、そのさま上《のぼ》る人に似たれば我は再び地獄にかへるなりとおもへり 七九―八一
よわれる人の如く喘ぎつゝ師曰ひけるは、かたくとらへよ、我等はかゝる段《きだ》によりてかゝる大いなる惡を離れざるをえず 八二―八四
かくて後彼とある岩の孔《あな》をいで、我をその縁《ふち》にすわらせ、さて心して足をわが方《かた》に移せり 八五―八七
我はもとのまゝなるルチーフェロをみるならんとおもひて目を擧げて見たりしにその脛上にありき 八八―九〇
わが此時の心の惑ひはわが過ぎし處の何なるやを辨《わきま》へざる愚なる人々ならではしりがたし 九一―九三
師曰ふ、起きよ、路遠く道程《みちすぢ》艱《かた》し、また日は既に第三時の半に歸れり 九四―九六
我等の居りし處は御館《みたち》の廣間《ひろま》にあらず床《ゆか》粗《あら》く光乏しき天然の獄舍《ひとや》なりき 九七―九九
我立ちて曰ひけるは、師よ、わがこの淵を去らざるさきに少しく我に語りて我を迷ひの中よりひきいだしたまへ 一〇〇―一〇二
氷はいづこにありや、この者いかなればかくさかさまに立つや、何によりてたゞしばしのまに日は夕《ゆふ》より朝に移れる 一〇三―一〇五
彼我に、汝はいまなほ地心のかなた、わがさきに世界を貫くよからぬ蟲の毛をとらへし處にありとおもへり 一〇六―一〇八
汝の
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