きならねば、しづかにこゝにその荷をおろせり 一三〇―一三二
さてこゝよりみゆるは次の大いなる溪なりき 一三三―一三五
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第二十曲
新《あらた》なる刑罰を詩に編《あ》み、これを第一の歌沈める者の歌のうちなる曲《カント》第二十の材となすべき時は至れり 一―三
こゝにわれよく心をとめて望み見しに、くるしみの涙を浴《あ》びし底あらはれ 四―六
まろき大溪《おほたに》に沿ひて來れる民泣いて物言はず、足のはこびはこの世の祈祷《いのり》の行列に似たりき 七―九
わが目なほひくゝ垂れて彼等におよべば、頤《おとがひ》と胸との間みな奇《く》しくゆがみて見ゆ 一〇―一二
すなはち顏は背《うしろ》にむかひ、彼等前を望むあたはで、たゞ後方《うしろ》に行くあるのみ 一三―一五
げに人|中風《ちゆうぶ》のわざによりてかく全くゆがむにいたれることもあるべし、されど我未だかゝることをみず、またありとも思ひがたし 一六―一八
讀者よ(願はくは神汝に讀みて實《み》を摘むことをえしめよ)、請ふ今自ら思へ、目の涙|背筋《せすぢ》をつたひて 一九―二一
臂《ゐさらひ》を洗ふばかりにいたくゆがめる我等の像《かたち》をしたしく見、我何ぞ顏を濡らさゞるをえん 二二―二四
我はげに堅き石橋の岩の一に凭《もた》れて泣けり、導者すなはち我に曰ふ、汝なほ愚者に等しきや 二五―二七
夫れこゝにては慈悲全く死してはじめて敬虔生く、神の審判《さばき》にむかひて憐みを起す者あらばこれより大いなる罪人あらんや 二八―三〇
首《かうべ》をあげよ、あげてかの者を見よ、テーベ人《びと》の目の前にて地そのためにひらけしはこれなり、この時人々皆叫びて、アンフィアラーオよ 三一―三三
何處《いづこ》におちいるや何ぞ軍《いくさ》を避くるやとよべるもおちいりて止まるひまなく、遂に萬民をとらふるミノスにいたれり 三四―三六
見よ彼は背を胸に代ふ、あまりに前《さき》をのみ見んことをねがへるによりていま後《あと》を見|後方《うしろ》にゆくなり 三七―三九
ティレージアを見よ、こは體《からだ》すべて變りて男より女となり、その姿あらたまるにいたれるものなり 四〇―四二
この事ありて後、再び雄々しき羽をうるため、彼まづ杖をもて二匹の縺《もつ》れあへる蛇をふたゝび打たざるをえざりき 四三―四五
背を彼の腹に向くるはアロンタなり、ルーニ山の中、その下に住むカルラーラ人の耕すところに 四六―四八
白き大理石のうちなる洞《ほら》を住居《すまゐ》とし、こゝより星と海とを心のまゝに見るをえき 四九―五一
みだれし髪をもて汝の見ざる乳房《ちぶさ》をおほひ、毛ある肌《はだへ》をみなかなたにむけしは 五二―五四
マントといへり、多くの國々をたづねめぐりて後わが生れし處にとどまりき、されば請ふ少しくわがこゝに陳《の》ぶることを聞け 五五―五七
その父世を逝《さ》りバーコの都|奴婢《はしため》となるにおよびてかれはひさしく世にさすらへり 五八―六〇
上《うへ》なる美しきイタリアの中、ティラルリに垂れて獨逸《ラーマニア》を閉すアルペの裾に一湖あり、ベナーコと名づく 六一―六三
ガルダとヴァル・カーモニカの間にはおもふに千餘の泉あるべし、その水みなアペンニノを洗ひてこの湖に湛ふ 六四―六六
湖の中央に一の處あり、トレント、ブレシヤ、ヴェロナの牧者等若しこの路を取ることあらば各※[#二の字点、1−2−22]こゝに祝福を與ふるをえん 六七―六九
美しき堅き城ペスキエーラはブレシヤ人ベルガーモ人を防がんとてまはりの岸のいと低き處にあり 七〇―七二
ベナーコの懷《ふところ》にあまるものみな必ずこゝに落ち、川となりて緑の牧場をくだる 七三―七五
この水流れはじむればベナーコと呼ばれず、ゴヴェルノにいたりてポーに入るまでミンチョとよばる 七六―七八
未だ遠く進まざるまにとある窪地《くぼち》をえて中にひろがり沼となり、夏はしば/\患ひを釀す恐れあり 七九―八一
さてこの處を過ぐとてかの猛き處女《をとめ》沼の中央に不毛無人の地あるを見 八二―八四
すべて世の交際《まじらひ》を避けおのが術《わざ》を行はんためその僕等と共にとゞまりてこゝに住みこゝにその骸《むくろ》を殘せり 八五―八七
この後あたりに散りゐたる人々みなこの處にあつまれり、これ四方に沼ありてその固《かため》強かりければなり 八八―九〇
彼等町を枯骨の上に建て、はじめてこの處をえらべるものに因《ちな》み、占《うら》によらずして之をマンツアと呼べり 九一―九三
カサロディの愚未だピナモンテの欺くところとならざりし頃は、この中なる民なほ多かりき 九四―九六
されど我汝を戒む、たとひ是と異なるわが邑《まち》の由來を聞くことありとも、汝|僞《いつはり》をもて眞《まこと》となすなかれ 九七
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