われ目をさだめて見しに一旒の旗ありき、飜り流れてそのはやきこと些《すこし》の停止《やすみ》をも蔑視《さげす》むに似たり 五二―五四
またその後方《うしろ》には長き列を成して歩める民ありき、死がかく多くの者を滅ぼすにいたらんとはわが思はざりしところなりしを 五五―五七
われわが識れるものゝ彼等の中にあるをみし後、心おくれて大事を辭《いな》めるものゝ魂を見知りぬ 五八―六〇
われはたゞちに悟《さと》りかつ信ぜり、こは神にも神の敵にも厭はるゝ卑しきものの宗族《うから》なりしを 六一―六三
これらの生けることなき劣れるものらはみな裸のまゝなりき、また虻あり蜂ありていたくかれらを刺し 六四―六六
顏に血汐の線をひき、その血の涙と混れるを汚らはしき蟲|足下《あしもと》にあつめぬ 六七―六九
われまた目をとめてなほ先方《さき》を望み、一の大いなる川の邊《ほとり》に民あるをみ、いひけるは、師よねがはくは 七〇―七二
かれらの誰なるや、微《かすか》なる光によりてうかゞふに彼等渡るをいそぐに似たるは何の定《さだめ》によりてなるやを我に知らせよ 七三―七五
彼我に、我等アケロンテの悲しき岸邊に足をとゞむる時これらの事汝にあきらかなるべし 七六―七八
この時わが目恥を帶びて垂れ、われはわが言《ことば》の彼に累をなすをおそれて、川にいたるまで物言ふことなかりき 七九―八一
こゝに見よひとりの翁《おきな》の年へし髮を戴きて白きを、かれ船にて我等の方に來り、叫びていひけるは、禍ひなるかな汝等惡しき魂よ 八二―八四
天を見るを望むなかれ、我は汝等をかなたの岸、永久《とこしへ》の闇の中熱の中氷の中に連れゆかんとて來れるなり 八五―八七
またそこなる生ける魂よ、これらの死にし者を離れよ、されどわが去らざるをみて 八八―九〇
いふ、汝はほかの路によりほかの港によりて岸につくべし、汝の渡るはこゝにあらず、汝を送るべき船はこれよりなほ輕し 九一―九三
導者彼に、カロンよ、怒る勿れ、思ひ定めたる事を凡て行ふ能力《ちから》あるところにてかく思ひ定められしなり、汝また問ふこと勿れ 九四―九六
この時目のまはりに炎の輪ある淡黒《うすぐろ》き沼なる舟師《かこ》の鬚多き頬はしづまりぬ 九七―九九
されどよわれる裸なる魂等はかの非情の言《ことば》をきゝて、たちまち色をかへ齒をかみあわせ 一〇〇―一〇二
神、親、人および
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