但しこは彼が、好みて我より隱れしにあらず、已《や》むをえざるにいづ、人間の的《まと》よりもその思ふところ高ければなり 四〇―四二
しかしてその熱愛の弓冷えゆき、そがためその言《ことば》人智の的の方《かた》に下るにおよび 四三―四五
わがさとれる第一の事にいふ。讚《ほ》むべき哉|三一《みつひとつ》にいます者、汝わが子孫をかくねんごろに眷顧《かへりみ》たまふ。 四六―四八
また續いて曰ふ。白きも黒きも變ることなき大いなる書《ふみ》を讀みてより、樂しくも久しく饑《うゑ》を覺えしに 四九―五一
子よ汝はこれをこの光(我この中《うち》にて汝に物言ふ)のなかにて鎭《しづ》めぬ、こはかく高く飛ばしめんため羽を汝に着せし淑女の恩惠《めぐみ》によれり 五二―五四
汝信ずらく、汝の思ひは第一の思ひより我に移り、その状《さま》あたかも一《いち》なる數の知らるゝ時五と六とこれより分れ出るに似たりと 五五―五七
さればこそわが誰なるやまた何故にこの樂しき群《むれ》の中にて特《こと》によろこばしく見ゆるやを汝は我に問はざるなれ 五八―六〇
汝の信ずる所正し、そは大いなるも小《ちひさ》きもすべてこの生を享《う》くる者は汝の思ひが未だ成らざるさきに現はるゝかの鏡を見ればなり 六一―六三
されど我をして目を醒《さま》しゐて永遠《とこしへ》に見しめまたうるはしき願ひに渇《かは》かしむる聖なる愛のいよ/\遂《と》げられんため 六四―六六
恐れず憚《はゞか》らずかつ悦ばしき聲をもて思ひを響かし願ひをひゞかせよ、わが答ははや定まりぬ。 六七―六九
我はベアトリーチェにむかへり、この時淑女わが語らざるにはやくも聞きて、我に一の徴《しるし》を與へ、わが願ひの翼を伸ばしき 七〇―七二
我即ち曰ふ。第一の平等者《びやうとうじや》汝等に現はるゝや、汝等|各自《おの/\》の愛と智とはその重《おも》さ等しくなりき 七三―七五
これ熱と光とをもて汝等を照らしかつ暖めし日輪が、これに比《たぐ》ふに足る物なきまでその平等を保つによる 七六―七八
されど人間にありては、汝等のよく知る理由《ことわり》にもとづき、意《おも》ふことと表《あら》はす力とその翼同じからず 七九―八一
是故に人間の我、自らこの不同を感ずるにより、父の如く汝の歡《よろこ》び迎ふるをたゞ心にて謝するのみ 八二―八四
我誠に汝に請《こ》ふ、この貴き寶を飾る生くる黄玉《わうぎよく》よ、汝の名を告げてわが願ひを滿《み》たせ。 八五―八七
あゝわが葉よ。汝を待つさへわが喜びなりき、我こそ汝の根なりけれ。彼まづかく我に答へ 八八―九〇
後また曰《い》ひけるは。汝の家族《やから》の名の本《もと》にて、第一の臺《うてな》に山を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》ることはや百年餘《もゝとせあまり》に及べる者は 九一―九三
我には子汝には曾祖父《そうそふ》なりき、汝|須《すべか》らく彼の爲にその長き勞苦をば汝の業《わざ》によりて短うすべし 九四―九六
それフィオレンツァはその昔の城壁――今もかしこより第三時と第九時との鐘聞ゆ――の内にて平和を保ち、かつ節《ひか》へかつ愼《つつし》めり 九七―九九
かしこに索《くさり》も冠もなく、飾れる沓《くつ》を穿《は》く女も、締むる人よりなほ目立つべき帶もなかりき 一〇〇―一〇二
まだその頃は女子《によし》生るとも父の恐れとならざりき、その婚期《とき》その聘禮《おくりもの》いづれも度《のり》を超《こ》えざりければなり 一〇三―一〇五
かしこに人の住まざる家なく、室《しつ》の内にて爲《せ》らるゝことを教へんとてサルダナパロの來れることもあらざりき 一〇六―一〇八
まだその頃は汝等のウッチェルラトイオもモンテマーロにまさらざりき――今その榮《さかえ》のまさるごとく、この後|衰《おとろへ》もまたまさらむ 一〇九―一一一
我はベルリンチオーン・ベルティが革紐《かわひも》と骨との帶を卷きて出で、またその妻が假粧《けさう》せずして鏡を離れ來るを見たり 一一二―一一四
またネルリの家長《いへをさ》とヴェッキオの家長《いへをさ》とが皮のみの衣をもて、その妻等が紡錘《つむ》と麻とをもて、心に足《た》れりとするを見たり 一一五―一一七
あゝ幸《さち》多き女等よ、彼等は一人だにその墓につきて恐れず、また未だフランスの故によりて獨《ひと》り臥床《ふしど》に殘されず 一一八―一二〇
ひとりは目を醒《さめ》しゐて搖籃《ゆりかご》を守り、またあやしつゝ、父母《ちゝはゝ》の心をばまづ樂します言《ことば》を用ゐ 一二一―一二三
ひとりは絲を紡《つむ》ぎつゝ、わが家《や》の人々と、トロイア人《びと》、フィエソレ、ローマの物語などなしき、チアンゲルラや 一二四―
ラーポ・サルテレルロの如き者その頃ありしならんには、チンチンナ
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