_ベアトリーチェより、近く故國に起るべき事及びその他の教へをきき、遂にエウノエのほとりに達し、こゝにてマテルダにたすけられてその水を飮み、天に登るをうるにいたる
一―三
【神よ】Deus, venerunt gentes「あゝ神よ、異邦人は汝の境に入來り、汝の聖なる殿《みや》を汚し、イエルサレムを荒地となせり」といふ詩篇第七九篇第一節の初めの詞。みたりの淑女(教理の三徳)よたりの淑女(四大徳)とつぎ/\にこの歌をうたひて寺院の頽敗を歎きたるなり
四―六
【マリア】聖母マリアが十字架上のキリストを見て哀れにたへざりしごとくベアトリーチェは寺院の悲運をいたみおもひてその顏色を變へしなり
七―九
淑女等うたひをはれるときベアトリーチェはその熱烈の情を面《おもて》にあらはし
一〇―一二
【少時せば】キリストの言(ヨハネ、一六・一六)。寺院の腐敗によりて靈界の知識一時ひそみかくるゝとも久しからずしてまた顯はるべしといひ、寺院の改善を豫言せるなり
一三―一五
七淑女を前に立たしめ、ダンテとマテルダとスタティウスとを身振りに示して後に立たしめ
二五―二七
【聲を齊ふる】原文、聲を完全に齒までひきいだす
二八―三〇
【汝は】わが問ひを待たずして汝は我に必要なるものとこの必要に應じて我に教ふべきこととを知る
三四―三六
かの龍のために底を奪はれし凱旋車は今や遠く移されてこゝにあらず、されどこれを移せる巨人は神の刑罰必ずその上に臨むを知るべし
【サッピ】sappi 酒またはその他の液體に浸せる麪包
註釋者曰。昔フィレンツェの習俗として、人を殺せる者若し兇行の當日より九日の間に於て被害者の墓にゆき、酒に浸せるパンをこゝに食ふときは、死者の遺族復讎をなすことあたはず、故に遺族等九日の間墓を護りて殺害者のこゝに入來るを防ぐを例とせりと。こゝにてはいかなる方法を用ゐるとも神の刑罰の避けうべきにあらざるをいへるなり
三七―三九
【羽を】淨、三二・一二四―六參照
【獲物】巨人の(淨、三二・一五一以下參照)
【鷲】即ち皇帝。世繼なきは帝位の空しきをいふ。フリートリヒ二世の死よりハインリヒ七世の即位まで(一二五〇年―一三〇八年)帝位空しきにあらざりしも名實相そはざるがゆゑに(淨、六・九七以下參照)ダンテはフリートリヒを指して最後のローマ皇帝といへり(『コンヴィヴィオ』四、三・三八以下)
四〇―四二
【妨碍障礙】世に及ぼす星の影響をさまたぐるもの
四三―四五
【五百と十と五】註釋者曰。五百と十と五は D X V なり、少しくその位置を變ずれば D V X(即ちラテン語にて導者、首領の義)となる、偉人出でて世の改善をはかるの意と、但し異説多し、また偉人とは何人を指していへるものなるや不明なり
ムーア博士はこの偉人を以てハインリヒ七世に外ならずとし Arrig(c,or k)o よりヘブライ文字の計算法によりて五百十五の數を得べき一の新しき試みをなせり(『ダンテ研究』第三卷二五三頁以下)、ベアトリーチェのこの豫言をばハインリヒ七世に對するダンテの望みをあらはせるものと見做すべき多くの理由あれどもダンテが果してその名をかく數字の上に現はさんとしたりしや疑はし
【盜人】遊女即ち法王。法王の位を奪へるによりてかくいふ(地、一九・五二以下參照)
四六―四八
【テミ】テミス、神話、ウラノスとゲーの間の女にして神託を以て名高し
【スフィンジェ】スピンクス、女面獸身の怪物、テバイの附近に住み謎を以て旅客をなやませるもの
四九―五一
事實は速かに汝をしてわがこの豫言の眞義をさとるをえせしむべし
【ナイアーデ】ナイアデス(ナイアス)泉の女神
スピンクスの謎を解けるはナイアデスにあらずしてライオスの手、即ちテバイ王オイディプスなり、こは謄寫の誤りよりオウィディウスの『メタモルフォセス』(七・七五九)にナイアデスとなりゐたるがダンテの時代にいたりてもなほいまだ訂正せられざりきといふ
【損害】スピンクス謎を解かれて死するやテミスこれがために讎を報いんとて怪獸を放ち、テバイ人の畜類及び田野に損害を與ふ(『メタモルフォセス』七・七六二以下參照)
五五―五七
【二度】最初はアダムに次は鷲に
五八―六〇
【己のためにとて】神の大權の表章として
六一―六三
禁斷の果實を食へるため、人類の始祖アダムはキリスト(即ち十字架上に死してアダムの罪を贖ひたまへる)の降臨を望み待ちつゝ、神を見るをえざる苦と神を見るをうるの願ひの中に五千年餘の歳月を經たり
【五千年餘】地上にあること九百三十年(創世記五・五)、リムボにあること四千三百二年(天、二六・一一八以下)
六四―六六
【うらがへる】淨、三二・四〇―二並びに註參照)
六七―六九
諸※[#二の字点、1−2−22]の空しき思ひによりて汝の心かたくなになり、かゝる思
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