を視る能はざるがゆゑに彫像によらず聲によりて教へらる
二八―三〇
聖母マリアの事蹟を第一例とす。カナの婚禮に招かれしとき酒盡きしかばマリア人々を憐みてキリストにむかひ、彼等に酒なしといふ、キリスト即ち水を變じて酒としたまふ(ヨハネ、二・一以下)
三一―三三
第二例としてピュラデス(ピラーデ)をあぐ。神話に曰く、アガメムノン(トロイアの役にて名高きギリシア軍の總大將)の子オレステス(オレステ)、ポキス王ストロピオスの子ピュラデスと水魚の交りありき、アガメムノンを殺せしアイギストスさらにオレステスを殺さんとせしときピュラデス叫びて我こそオレステスなれといひその友に代りて死せんとせりと
三四―三六
キリストの教訓を第三例とす(マタイ、五・四四)
三七―三九
【鞭の紐】善に導く方法即ち教訓の例
四〇―四二
【銜は】嫉妬の罪を避けしむる方法はこれと異なる例即ち嫉妬の罰の例を示してこの罪を恐れしむるにあり
鞭は魂をむちうち勵まして善に向はしむる積極的教訓をいひ銜は魂を抑制して惡に遠ざからしむる消極的教訓をいふ、前者には徳の例をあげ後者には罪の罰の例をあぐ、淨火の七圈各※[#二の字点、1−2−22]この二者を備ふ
【赦の徑】第二圈と第三圈の間にある徑《こみち》、この下にいたれば天使額上よりP字の一を消去るなり、嫉妬の罰は淨、一四・一三三以下にいづ
四三―四五
【かなたを】原文、空氣を透して
四九―五一
【聖徒よと喚ばはる】或ひは、聖徒をよばはる。聖母を初め諸天使諸聖徒の助けを求むる祈りの歌(Litanie de'Santi)をうたへるなり
五八―六〇
【毛織】cilicio 馬の毛等を結びあはせて造れる粗き衣にて昔隱者これを肌に着けそのたえず身を刺すを忍びて一種の行《ぎやう》となせりといふ
六一―六六
【赦罪の日】寺院に特赦の式ある日近隣の人々赦罪を乞はんためそこに集まるを例とす、かゝる折を待ちて盲目の乞丐《かたゐ》等また寺前に集まり憐れなる言葉をいだし、あはれなる姿を示してかの人々に物乞はんとするなり
七〇―七二
目を大にして他人の境遇をうかゞふは嫉妬の人の常なれば目を縫ひふさぎてこの罪を矯む
【鷹】馴れざる鷹は人を見ればたえず恐れて逃げんとするがゆゑにこれを馴らさんため始め絲をもてその瞼を縫ひ合はす習ひありきといふ
七九―八一
路の右方即ち圈の外側は第一圈に接する斷崖あるところにてその縁平らかなればウェルギリウスはダンテの墜落を防ぎかつは圈の状況をしたしくこれに見せしめんとて自ら右側を行けるなり
八五―八七
【高き光】神
八八―九〇
願はくは神恩によりて汝等の心の汚穢《けがれ》洗ひ去られその記憶だにあとに殘らざるにいたらんことを
【これを】良心を
九一―九三
【ラチオ人】イタリア人
【益あらむ】生者に請ひてその者のために祈らしむべければ
九四―九六
【眞の都】天の都(エペソ、二・一九參照)
【旅客】天は郷土、人は旅客なり
九七―九九
【かなたに】かの魂に聞えしめんため聲を高くして語れる(一〇三―五行)をいふ
一〇三―一〇五
【登らむ】天に
一〇九―一一一
【サピーア】シエーナの貴婦人、家系不明
【智慧なく】Savia non fui 名の Sapia と savia(賢き)とを通はして文飾となせるなり
一一二―一一四
【はや降《くだり》と】われ三十五歳を過ぎしとき(地、一・一―三註參照)
一一五―一一七
【コルレ】エルザの溪の一丘上にある町の名。一二六九年シエーナ及びその他のギベルリニ黨、フィレンツェ人とこゝに戰ひて敗れ、シエーナ軍の主將プロヴェンツアーノ・サルヴァーニ(淨、一一・一二一)虜はれて殺さる
【好みたまへるもの】シエーナ軍の敗北。サピーアは極めて嫉妬深き女なればその同郷人特には當時權勢並びなきプロヴェンツァーンをそねみてその敗戰を希へるなるべしといふ
一二一―一二三
【メルロ】鳥の名、異鶫《くろつぐみ》の類
註釋者曰。こは昔の人の話柄《かたりぐさ》に、メルロは雪の頃身を縮めて元氣なけれど空少しく晴るゝをみれば直ちに勢ひを得て、冬すでに過ぐ、主よ我また汝を恐れずといふといへるによれるなりと
【恐れず】わが願ひすでに成就したれば
一二四―一二九
【ピエル・ペッティナーイオ】ピエートロ・ダ・カムピ、幼少の頃よりシエーナに住み櫛を商へるをもてペッティナーイオ(櫛商)の異名あり、その行ひ極めて清廉にして善行多し、一二八九年シエーナに死す、市民公費を以てその墓を建つといふ
【負債は】我はこゝに來りてたとひ一部なりともわが罪を贖ひ終ることあたはず、臨終に悔改めし魂の例に從ひ今猶淨火の門外に止まれるなるべし
一三三―一三五
我もいつかこのところに來りて嫉みの罪を淨めんために汝等の如く目を縫はるゝことあらむ、されどわがこゝに止まる間は短かかる
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