―一〇八
かく高き地位をえて心なほしづまらず、またかの生をうくる者さらに高く上《のぼ》るをえざるをみたるがゆゑにこの生の愛わが衷《うち》に燃えたり 一〇九―一一一
かの時にいたるまで、我は幸《さち》なき、神を離れし、全く慾深き魂なりき、今は汝の見るごとく我このためにこゝに罰せらる 一一二―一一四
貪婪《むさぼり》の爲すところのことは我等悔いし魂の罪を淨むる状《さま》にあらはる、そも/\この山にこれより苦《にが》き罰はなし 一一五―一一七
我等の目地上の物に注ぎて、高く擧げられざりしごとくに、正義はこゝにこれを地に沈ましむ 一一八―一二〇
貪婪《むさぼり》善を求むる我等の愛を消して我等の働をとゞめしごとくに、正義はこゝに足をも手をも搦《から》めとらへて 一二一―
かたく我等を壓《おさ》ふ、正しき主の好みたまふ間は、我等いつまでも身を伸べて動かじ。 ―一二六
我は既に跪きてゐたりしが、このとき語らんと思へるに、わが語りはじむるや彼ただ耳を傾けて我の尊敬《うやまひ》をあらはすをしり 一二七―一二九
いひけるは。汝何ぞかく身をかゞむるや。我彼に。汝の分《きは》貴《たか》ければわが良心は我の直く立つを責めたり。 一三〇―一三二
彼答ふらく。兄弟よ、足を直くして身を起すべし、誤るなかれ、我も汝等とおなじく一の權威《ちから》の僕《しもべ》なり 一三三―一三五
汝若しまた嫁せず[#「また嫁せず」に白丸傍点]といへる福音の聲をきけることあらば、またよくわがかく語る所以《ゆゑん》をさとらむ 一三六―一三八
いざ往《ゆ》け、我は汝の尚長く止まるを願はず、我泣いて汝のいへるところのものを熟《う》ましむるに汝のこゝにあるはその妨《さまたげ》となればなり 一三九―一四一
我には世に、名をアラージヤといふひとりの姪《めひ》あり、わが族《うから》の惡に染まずばその氣質《こゝろばへ》はよし 一四二―一四四
わがかしこに殘せる者たゞかの女のみ。 一四五―一四七
[#改ページ]
第二十曲
一の意これにまさる意と戰ふも利なし、是故に我は彼を悦ばせんためわが願ひに背きて飽かざる海絨《うみわた》を水よりあげぬ 一―三
我は進めり、わが導者はたえず岩に沿ひて障礙《しやうげ》なき處をゆけり、そのさま身を女墻《ひめがき》に寄せつゝ城壁の上をゆく者に似たりき 四―六
そは片側《かたがは》には、全世界にはびこる罪を一|滴《しづく》また一滴、目より注ぎいだす民、あまりに縁《ふち》近くゐたればなり 七―九
禍ひなるかな汝年へし牝の狼よ、汝ははてしなき饑《う》ゑのために獲物《えもの》をとらふること凡ての獸の上にいづ 一〇―一二
あゝ天よ(人或ひは下界の推移を汝の運行に歸するに似たり)、これを逐ふ者いつか來らむ 一三―一五
我等はおそくしづかに歩めり、我は魂等のいたはしく歎き憂ふる聲をききつゝこれに心をとめゐたるに 一六―一八
ふと我等の前に、産《うみ》にくるしむ女のごとく悲しくさけぶ聲きこえて、うるはしきマリアよといひ 一九―二一
續いてまた、汝の貧しかりしことは汝が汝の聖なる嬰兒《をさなご》を臥さしめしかの客舍にあらはるといひ 二二―二四
また次に、あゝ善きファーブリツィオよ、汝は不義と大いなる富を得んより貧と徳をえんと思へりといふ 二五―二七
これらの詞よくわが心に適《かな》ひたれば、我はかくいへりとみゆる靈の事をしらんとてなほさきに進めるに 二八―三〇
彼はまたニッコロが小女《をとめ》等の若き生命《いのち》を導きて貞淑《みさを》に到らしめんため彼等にをしまず物を施せしことをかたれり 三一―三三
我曰ふ。あゝかく大いなる善を語る魂よ、汝は誰なりしや、何ぞたゞひとりこれらの讚《ほ》むべきわざを新たに陳ぶるや、請ふ告げよ 三四―三六
果《はて》をめざして飛びゆく生命《いのち》の短き旅を終へんためわれ世に歸らば、汝の詞|報酬《むくい》をえざることあらじ。 三七―三九
彼。我はかしこに慰《なぐさめ》をうるを望まざれども、かく大いなる恩惠《めぐみ》いまだ死せざる汝の中に輝くによりてこれを告ぐべし 四〇―四二
一の惡しき木その蔭をもてすべてのクリスト數國をおほひ、良果《よきみ》これより採らるゝこと罕《まれ》なり、そも/\我はかの木の根なりき 四三―四五
されどドアジォ、リルラ、ガンド、及びブルーゼスの力足りなば報《むくい》速かにこれに臨まむ、我また萬物を裁《さば》き給ふ者にこの報を乞ひ求む 四六―四八
我は世に名をウーゴ・チャペッタといへり、多くのフィリッピとルイージ我よりいでて近代《ちかきよ》のフランスを治む 五二―五四
我は巴里《パリージ》のとある屠戸《にくや》の子なりき、昔の王達はやみな薨《かく》れて、灰色の衣を着る者獨り殘れるのみなりし頃 五二―五四
我は王國の統御の手綱のか
前へ
次へ
全99ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
山川 丙三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング