ーナに響かせき、しかるに今はシエーナにても(その頃たかぶり今けがるゝフィレンツェの劇しき怒《いかり》亡ぼされし時彼はかしこの君なりき)殆んど彼のことをさゝやく人なし ―一一四
汝等の名は草の色のあらはれてまたきゆるに似たり、しかして草をやはらかに地より生《は》え出《いで》しむるものまたその色をうつろはす。 一一五―一一七
我彼に。汝の眞《まこと》の言《ことば》善き謙遜をわが心にそゝぎ、汝わが大いなる誇《ほこり》をしづむ、されど汝が今語れるは誰の事ぞや。 一一八―一二〇
答へて曰ふ。プロヴェンツァン・サルヴァーニなり、彼心驕りてシエーナを悉くその手に握らんとせるがゆゑにこゝにあり 一二一―一二三
彼は死にしより以來《このかた》かくのごとく歩みたり、また歩みて休《やす》らふことなし、凡て世に膽《きも》のあまりに大《ふと》き者かゝる金錢《かね》を納めて贖《あがなひ》の代《しろ》とす。 一二四―一二六
我。生命《いのち》の終り近づくまで悔ゆることをせざりし靈かの低き處に殘り、善き祈りの助けによらでは 一二七―
その齡《よはひ》に等しき時過ぐるまで、こゝに登るあたはずば、彼何ぞかく來るを許されしや。 ―一三二
彼曰ふ。彼榮達を極めし頃、一切の恥を棄て、自ら求めてシエーナのカムポにとゞまり 一三三―一三五
その友をカルロの獄《ひとや》の中にうくる苦しみの中より救ひいださんとて、己が全身をかしこに震はしむるにいたれり 一三六―一三八
我またいはじ、我わが言《ことば》の暗きを知る、されど少時《しばらく》せば汝の隣人《となりびと》等その爲すところによりて汝にこれをさとるをえしめむ 一三九―一四一
この行《おこなひ》なりき彼のためにかの幽閉を解きたるものは。 一四二―一四四
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   第十二曲

我はかの重荷を負へる魂と、あたかも軛《くびき》をつけてゆく二匹の牡牛のごとく並びて、うるはしき師の許したまふ間歩めり 一―三
されど師が、彼をあとに殘して行け、こゝにては人各※[#二の字点、1−2−22]帆と櫂をもてその力のかぎり船を進むべしといへるとき 四―六
我は行歩《あゆみ》の要求《もとめ》に從ひ再び身を直《なほ》くせり、たゞわが思ひはもとのごとく屈みてかつ低かりき 七―九
我既に進み、よろこびてわが師の足にしたがひ、彼も我も既に身のいかに輕きやをあらはしゐたるに 一〇―一
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