光れる一の物語をわが近くにみんとて足をはこべば 七〇―七二
こゝには己が徳によりてグレゴーリオを動かしこれに大いなる勝利《かち》をえしめしローマの君の榮光高き事蹟を寫せり 七三―七五
わが斯くいへるは皇帝トラヤーノの事なり、ひとりの寡婦《やもめ》涙と憂ひを姿にあらはし、その轡のほとりに立てり 七六―七八
君のまはりには多くの騎馬武者|群《むら》がりて押しあふごとく、またその上には黄金《こがね》の中なる鷲風に漂《たゞよ》ふごとく見えたり 七九―八一
すべてこれらの者のなかにてかの幸《さち》なき女、主よわがためにわが子の仇を報いたまへ、彼死にてわが心いたく傷《いた》むといひ 八二―八四
彼はこれに答へて、まづわが歸るまで待てといふに似たりき、また女、あたかも歎きのために忍ぶあたはざる人の如く、我主よ 八五―八七
若し歸り給はずばといひ、彼、我に代る者汝の爲に報いんといひ、女又、汝己の爲すべき善を思はずば人善を爲すとも汝に何の係《かゝはり》在らん 八八―
といひ、彼聞きて、今は心を安んぜよ、我わが義務《つとめ》を果して後行かざるべからず、正義これを求め、慈悲我を抑《と》むといふに似たりき ―九三
未だ新しき物を見しことなきもの、この見るをうべき詞を造りたまへるなり、こは世にあらざるがゆゑに我等に奇《めづら》し 九四―九六
かく大いなる謙遜を表はしその造主《つくりぬし》の故によりていよ/\たふときこれらの象《かたち》をみ、われ心を喜ばしゐたるに 九七―九九
詩人さゝやきていふ。見よこなたに多くの民あり、されどその歩《あゆみ》は遲し、彼等われらに高き階《きざはし》にいたる路を教へむ。 一〇〇―一〇二
眺《なが》むることにのみ凝《こ》れるわが目も、その好む習ひなる奇《めづら》しき物をみんとて、たゞちに彼の方《かた》にむかへり 一〇三―一〇五
讀者よ、げに我は汝が神何によりて負債《おひめ》を償はせたまふやを聞きて己の善き志より離るゝを願ふにあらず 一〇六―一〇八
心を苛責の状態《ありさま》にとむるなかれ、その成行《なりゆき》を思へ、そのいかにあしくとも大なる審判《さばき》の後まで續かざることを思へ 一〇九―一一一
我曰ふ。師よ、こなたに動くものをみるに姿人の如くならず、されどわが目迷ひて我その何なるを知りがたし。 一一二―一一四
彼我に。苛責の重荷《おもに》彼等を地に屈《かゞ》ま
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