w面の小圓即ち詩人等の立てる圓き岩
一一八―一二〇
南北兩半球の相對面に於ける時間の差は十二時間なり、すなはち南半球は北半球より時後るゝこと十二時なれば地獄の夕はその背面の朝にあたる
一二一―一二六
ルキフェル天を逐はれて南半球に落つ、この時この半球を蔽へる陸は恐怖のあまり海にかくれて北半球に入りたり、また淨火の山は魔王が地獄にくだれる時これに觸るゝをおそれて地底を離れし土より成りこの土地底を離れしためこゝにこの空虚あるにいたれるなるべし
一二七―一三二
【ベルヅエブ】ベルセブル、地獄の王ルキフェルの異名(マタイ、一二・二四)
【墓】地獄
【一の處】半球地下の狹路、ルキフェルの許より地上の一點に通ずる路なればその長さは地獄の入口よりルキフェルまでの距離に等し
【小川】淨火に淨められし罪地獄にかへるなり、註釋者多くはこれをレーテの流れと解すれど疑はし
一三六―一三八
【孔の口】地上への出口即ち地下の狹路の一端
【美しき物】星(地、一・四〇參照)、天と共にめぐりゆくもの
一三九
【いでぬ】九日の午前七時半頃にて今見る星は十日の早朝の星なれば(淨、一・一九―二一註參照)南半球地下の幽路を辿れる間は二十時間餘なり
【諸※[#二の字点、1−2−22]の星】『神曲』の各篇皆 stelle(星)の一語に終る
[#改丁]

 ダンテの地獄は漏斗状をなす一の大いなる坎なり、その頂《いただき》地表に接し、底地心に達す、坎に沿ひ坎をめぐりて多くの圓形の地帶あり、底を合せて九個の獄となる(この中第七獄は三、第八獄は十、第九獄は四に細分せられ各※[#二の字点、1−2−22]罰する罪人を異にす)、すべて上方に罰せらるゝものはその罪輕く下るに從つてその罪重し、しかして第五獄と第六獄の間にはディーテの城壁ありて地獄全體を二大分す、その上なる諸獄には放縱の罪罰せられ下なる諸獄には邪惡の罪罰せらる、この他地獄圈外に怯者の罰をうくるところ第八獄と第九獄の間に巨人の罰をうくるところあり、地心を貫いて地獄の王ルチーフェロの立つあり。
 地獄内の諸水にはアケロンテの川、スティージェの沼、フレジェトンテの流れあり、名異なれども實一なり、クレタ島の巨人よりいでて地獄にくだり或ひは川、瀑、沼となりてあらはれ或ひはまた地下にかくれて次第に地底にむかひ、遂に凍りてコチートの池となる。
 ダンテはウェルギリウス(ヴィルジリオ)に導かれて暗き林を離れ、地獄の門よりたえず左に道を取り、地獄各圈を歴程してその底にくだり、さらに地心を過ぎて南半球に移り、地下の幽路を辿りて再び地上にいづ。
 二詩人が地獄内に費せる時間は約二十四時間にて地心より南半球の地上にいたるまでに費せる時間は約二十一時間なり。



底本:「神曲(上)」岩波文庫、岩波書店
   1952(昭和27)年8月5日第1刷発行
※「神曲」の原文は、三行一組の句を連ねる形式を踏んでいます。底本は訳文の下に、「一」「四」「七」と数字を置いて、原文の句との対応を示していますが、このファイルでは、行末に「一―三」「四―六」「七―九」を置く形をとりました。
※底本が用いている「〔」と「〕」は、「アクセント分解された欧文をかこむ」記号と重なるため、「【」と「】」に置き換えました。
入力:tatsuki
校正:浅原庸子
2003年9月29日作成
2006年5月19日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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