クはれてピサなるグアランディ家の塔中に幽せられ翌年に至りて悉く餓死す
【ルツジェーリ】ルツジェーリ・デーリ・ウバルディーニ。ピサの東ムジエルロの者、一二七八年ピサの大僧正となり、ウゴリーノの變にあづかりしこと前述の如し、法王ニコラウス四世彼がグエルフィ黨に對する行爲をにくみ終身禁錮の命を下せしかども法王死して彼刑を免かれ一二九五年ヴィテルポに死す
【かゝる隣人】隣人といへば親しみをあらはすこと常なるに彼等は同じ處にありてしかも仇敵なればなり
二二―二四
【塒】グアランディ家の塔(當時市有)、伯爵等の死後「餓ゑの塔」とよばる
muda は羽毛の變り時に鳥を養ふ處なり、ブーティ(Buti)曰、作者この塔をかくよべるは塔の中に羽替頃の市有の鷹を飼へるため當時かくよびならはせしによるかさらずば轉用して伯爵等がこゝに籠の鳥の如く幽閉せられしをいへるならんと
註釋者曰、この後にもなほ人を籠むべしといへるはウゴリーノの想像にてその後この塔中に幽せられし人あるを聞かずと
二五―二七
【多くの月】牢獄の中たゞ月の盈虚によりて時の過ぎゆくをしるなり、ウゴリーノ等のとらはれしは一二八八年七月にてその死せしは翌年三月なればその間幾多の月を閲せり
二八―三〇
【山】サン・ジュリアーノ、ピサとルッカの間にあり
三一―三三
【牝犬】ギベルリニ黨に屬する僧正一味のピサ人
【グアランディ、シスモンディ、ランフランキ】僧正に與せしピサの名族
三七―三九
【曉】地、二六・七參照
【兒等】四人の中ガッドとウグッチオネはウゴリーノの子ブリガータとアンセルムッチオはその孫なり、おしなべて兒等といへるは親愛の意をあらはせるなるべし
四六―四八
【釘打つ音】chiavar 異説に釘打つにあらず鍵もて閉すなりといへどうけがたし
四九ー五一
【アンセルムッチオ】(稚なきアンセルモの義)、ウゴリーノの長子グエルフォの子
五五―五七
【われ自らのすがた】血肉の似寄り並びに同じ憂ひ同じ恐れ


六四―六六
【土よ】何ぞ開きて我を呑みこの憂ひより救はざりしや
六七―六九
【第四日】釘打つ音をきゝし日より四日目
【ガッド】ウゴリーノの子にてウグッチオネの兄なり
七〇―七五
【まのあたり】原文、汝の我を見る如く
【二日】七日と八日目の二日(或曰、六日と七日目の二日と)
異本、三日
【斷食の力】悲哀その極みに達してしかもいまだ死なざりしかど遂に餓ゑの爲に死にたり
七九―八一
【うるはしき國】イタリア、「シ」siを然の意に用ゐる國なり
【隣人等】フィレンツェ、ルッカの人々
八二―八四
【カプライァ、ゴルゴーナ】チレニア海中の二島嶼、アルノ河口の西南にあり、ピサはこの河口に近く且つその兩岸に跨がる町なれば河水氾濫して全市の民溺れ死するを願へるなり
八五―八七
【城を賣れり】一三―五行註參照
【きこえ】ウゴリーノ伯が城を敵に渡せるは私慾を滿たさんためなりきとの流言當時行はれ僧正ルツジェーリ亦之を以て民心を煽動する一の利器たらしめし如し、されど伯のこの行爲はピサを窮厄の中より救ひ出さんとする苦肉の謀なりければダンテもこゝにたゞこれを世評として記載せるのみ、ウゴリーノのアンテノーラに罰せらるゝは己が權勢を大ならしめんためニーノ・ヴィスコンティを逐ひ却つて自らグエルフィ黨の禍ひを釀すにいたりたればなるべし
【十字架につく】苛責す
八八―九〇
【第二のテーべ】ピサ、テバイ(テーベ)は多くの殘虐行はれし處なればなり
【年若き】ダンテは事實を枉げて二子二孫皆幼少なりし如くしるせり、このうち丁年に滿たざりしはアンセルムッチオのみ
【ウグッチオネ】ウゴリーノの子にてガッドの弟なり
【イル・ブリガータ】アンセルッチオの兄、名をウゴリーノ又はニーノといふ、イル・ブリガータはその綽名なり
【此曲】五〇行及び六八行
九一―九三
以下トロメアを敍す
九四―九六
初めの涙凍りて次の涙を出でしめざるをいへり
九七―九九
【被物】visiere 眼鏡又は兜の表と解する人あり
【杯】眼孔
一〇三―一〇五
【地氣】太陽の熱によりて一種の氣地より生ずその乾けるもの風を起し濕れるもの雨を起すといへる古の學説によれり、ダンテは日光なき地獄の底に風あるをあやしめるなり
一〇六―一〇八
【源】地獄の王ルキフェルの翼(地、三四・五〇―五一)
一〇九―一一一
【最後の立處】第四圓即ちジュデッカ、詩人等をジュデッカに罰せらるべき魂なりとおもへるなり
一一二―一一四
【洩す】涙によりて
一一五―一一七
【氷の底】ルキフェルの許、ダンテは約を果すも果さゞるもいづれ地心にゆくべきものなればそのいへること誓言に似て誓言にあらず
一一八―一二〇
【アルベリーゴ】アルベリーゴ・ディ・マンフレディ。一二六七年より「フラーテ・ゴデンティ」(地、二三・一〇三參照)たり、ファーエンヅァのグエルフィ黨を統ぶ、その血族マンフレディ(弟なりとの説あり)及びマンフレディの子アルベルゲットと權勢を爭ひ、ひそかに彼等を害せんとはかり言を和親に托して宴に招き食終れる時果物を持來れといふ、この時忍びの者共この詞を相圖に座席に入來りて父子を殺せり(一二八五年)
【よからぬ園の】客人を賣る相圖に用ゐたれば罪の園に生ぜる果といへり
【無花果に代へ】罪業相當の刑罰をうく
一二一―一二三
【しらず】地、一〇・一〇三―五參照
一二四―一二六
【トロメア】第三園、賓客の信に背ける者の罰せらるゝところ、ジエリコの首長トロメオの名をとれるなり、このトロメオはおのが岳父にして祭司長なるシモネ・マッカベオ及びその二子をわが城内に招き酒を飮ましめて後殺せり(マッカベエイ前、一六・一一―六)
【アトローポス】運命を司る神の一にていのちの絲を斷ち切るもの
その人未だ死なざるに魂まづトロメアにくだりて罰をうくることありとの意なり、之に關し註釋者曰、ダンテは詩篇五五・一五に、願はくは彼等生けるまゝにてシエオルに下らんことをといへるにもとづきこの種の刑罰に思ひいたれるなるべしと
一三三―一三五
【おのれは】魂自らは地獄の底に落つ
一三六―一三八
【セル・ブランカ・ドーリア】ジエーノヴァの名族ドーリア家の者にてミケーレ・ツァンケ(一四〇行)の婿なり、一二九〇年の頃、(或ひは七五年の頃ともいふ)サールディニア島のロゴドロ州(地、二二・八八―九〇及び註參照)を奪はんため舅を招きて會食し欺いてこれを己が城内に殺せり
一四二―一四四
【マーレブランケの濠】第八の地獄第五嚢、汚吏の罰せらるゝところ
一四五―一四七
異本、この者己が身と……その近親のひとりの身に鬼を殘せり
一四八―一五〇
【暴】約を履まざりし事
一五四―一五七
【ローマニアの魂】アルペリーゴ(一一八行)、その郷里ファーエンヅァはローマニアにあり
【ひとり】ブランカ・ドーリア


    第三十四曲

ダンテ、ウェルギリウスと第九の地獄第四の圓にいたりこゝに恩人を賣れるものゝ魂を見、後その中央にあらはれし地獄の王ルキフェル(ルチーフェロ)に近づきその毛にすがりて地心を過ぎさらに一條の幽路をたどりて外界にむかふ
一―三
Vexilla Regis prodeunt inferni(地獄の王の旗進む)、この中初めの三語はフォルツナート・ヂ・チエーネダー(イタリアの生れにてフランス、ポアチエの僧正となれり)の作なるキリスト磔刑の聖歌の始めをとれるなり、この歌今も寺院の一部に用ゐらるといふ、地獄の王はルキフェル、旗はその翼なり
七―九
【風】五〇―五一行參照
一三―一五
四種の罪人、註釋者曰、恩人を賣れる罪人の中、伏したるは己と同等の地位にあるもの、直立せるは己より地位低きもの、倒立せるは同じく高きものを賣り、弓形をなすは高きと低きと二種の恩人を賣れる者なりと
一六―一八
【昔姿美】魔王が未だ天を逐はれざりしさきには天使中その姿特に美しく尊かりしと信ぜられたればなり(淨、一二・二五―六參照)
一九―二一
【ディーテ】魔王の名として用ゐられしこと『アエネイス』に例多し
二五―二七
【彼をも此をも】死をも生をも
三四―三六
特殊の神恩によりてその美しき事萬の天使にもまされる程なるになほその造主に背けりといへば今一切の禍ひの本となるもあやしむにたらず
三七―三九
【三の顏】寓意のあるところあきらかならず、註釋者曰、これ地、三・五―六なる三一の神の對照なり即ち權威智慧愛の三に對し無力無智憎惡の三を示せるものにて無力は黄無智は黒憎惡は赤を以てあらはすと
四〇―四二
【※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]冠あるところ】頭の頂、四七行に鳥といへると同じく翼あるに因みてなり
四三―四五
【ニーロ】エジプトのナイル川、南方エチオピアよりいづ
【人々】エチオピアの黒人
四九―五一
【羽なく】當時の説によれるなり。
五二―五四
【コチート】地、一四・一一八―二〇參照
五五―五七
【碎麻機】maciulla 二個の木片うちあひて麻を碎き莖と絲とをわかつ機具
六一―六三
【ジユダ・スカリオット】イスカリオテのユダ、キリスト十二弟子の一、師を賣りて銀三十をえ後悔いて縊る(マタイ、二六・一四以下及び二七の三以下等)
六四―六六
【プルート】マルクス・ユウニウス・ブルートゥス(前八五―四二年)、カエサル殺害者の一人
六七―六九
【カッシオ】カイウス・カッシウス・ロンギーヌス(前四二年死)ブルートゥスと共にカエサルを殺害せるもの、或人曰く、ダンテがカッシウスを肉逞しきものとせるはキケロがルキウス・カッシウスを肥えたりといへるに基づきルキウスを、カイウスと誤り混じたるによると
ダンテの所謂理想的國家には二個の重要なる機關あり、一は法王にして靈界の事を司り一は帝王にして物質界の事を司る、ダンテ思へらく、この二の者各※[#二の字点、1−2−22]その範圍内に於て絶對の權能を有し各※[#二の字点、1−2−22]直接に神より受けたる使命を果し、しかも相提携し相並馳して初めてこゝに人類の幸福を増し一は天上の樂園を作り一は地上の樂園を造るにいたるべし、キリストは法王の法王なりこれに背けるユダはたゞに恩師の罪人なるのみならずまた神の攝理にむかひてその刃をむけしなり罪最も重し、カエサルは皇帝の皇帝なりこれに背けるブルートゥス等はたゞに恩人を賣れる逆賊なるのみならずまた神意に基づいて地上の樂園を完成すべき國家至要の機關にむかひてその旗を擧げしなりユダにつぎての罪人といふべし
【夜はまた來れり】一三〇〇年四月九日の夕暮となれるをいふ
七六―七八
【疲れて】重力の集まるところなれば身を轉じて地心を離るゝこといとかたし
七九―八一
ルチーフェロ(ルキフェル)の腰乃ち地球の中心までくだりその後身を逆にして南半球を上りゆくが故に下るも上るも同一の方向に進むに他ならねどダンテまどひてもとの地獄に歸るとおもへりとの意
八二―八四
【とらへよ】わが頸を
【段】地、一七・八二參照
九一―九三
【何なるやを】地球の中心なることを
九四―九六
【日】時を示すに日を用ゐしは既に地獄を離れたればなり
【第三時の半】昔晝間の十二時を四分して第三時第六時及び第九時を夕とをせり、第三時は日出後の三時間なれば日出を六時頃と見做してその半即ち約七時半にあたる、再び九日の朝となりたれば歸るといへり(一一八―二〇行註參照)
一〇〇―一〇二
【淵】地獄
一〇三―一〇五
【氷】コチートの
一〇六―一〇八
【蟲】ルキフェル、地心を貫いて立てり、蟲は姿の忌むべきをあらはす詞(地、六・二二―四註參照)
一〇九―一一一
【點】地球の中心、當時の科學によれば宇宙の重力のすべてあつまるところなり(くはしくはムーアの『ダンテ研究』二卷三二一頁以下參照)
一一二―一一七
【人】キリスト
【頂點のもと】イエルサレム、インドより起れる北半球の子午線はその頂點にいたりてイエルサレムの都を蔽ふ(淨、二・一以下)
【ジュデッカ】第九の地獄第四の圓、恩人に背けるものゝ罰せらるゝところ(一〇―一五行)、キリストを賣りしジュダ(ユダ)の名による
【小さき球】ジユデッカと相當する
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