ロイアに赴き、爲に十年に亙れるトロイア戰役を惹起すにいたれるもの(地、一・七三―五註參照】
【アキルレ】アキレウス、トロイア戰役の猛將
アキレウスはホメロスに歌はれしギリシア方の名將なり、傳説に曰、トロイア戰役の際、彼敵將プリアモスの女ポリユクセナ(地、三〇・一七)を慕ひ武裝を解きてアポロンの宮殿に入りこゝにてパリスの殺すところとなれりと
六七―六九
【パリス】ヘレネを奪へるもの(六四―六行註參照)
【トリスターノ】トリスタン、中古ひろく行はれし英王アーサー物語にいづ、叔父マークの妻を戀ひ、マークの殺すところとなる
七三―七五
【かのふたり】パオロ・マラテスタ及びフランチェスカ・ダ・リミニ(ポレンタ)
今當時の記録によりてこの悲劇の大要をあぐれば左の如し
フランチェスカはラヴェンナの君なるグイード・ダ・ポレンタ(老グイード)の女なり、當時ポレンタ家とリミニなるマラテスタ家の間に葛藤絶ゆることなかりしが仲裁者いでて和議成るに及び、いよ/\和親を固うせんため老グイードはその女フランチェスカをマラテスタ・ダ・ヴェルルッキオ(地、二七・四六―八註參照)の子ジャンチオットに嫁するを許せり、このジャンチオットは武勇の聞えありしものなれども風姿粗野にして且つ不具なりければグイード、人の諫めに從ひその弟パオロを兄に代りてポレンタ家に來らしむ、フランチェスカはパオロの若くして美しきを見これをその夫となるべき人なりと聞き伴はれてリミニにいたれり
フランチェスカ、リミニにいたりこゝにはじめて己が欺かれしを知りて悔ゆれどもおよばず、されどパオロに對する戀々の情はかへつてこの事あるによりてまされり、會※[#二の字点、1−2−22]ジャンチオット公務のため出でゝ家に在らず、兩人相會して情をかたる、ジャンチオット下人の告ぐるところによりてこれを知り不意にひきかへして彼等を殺せり(一二八五年頃の事といふ)
七九―八一
【彼】神、(Altri は古く大能ある者をあらはすに用ひし不定代名詞)、地獄内にては罪人にをかひて神の名を稱ふることなし
八二―八四
【願ひ】巣に歸らんとの
【たかめ】異本、ひらき
八五―八七
【ディド】六一−三行註參照
八八―九〇
以下一〇七行までフランチェスカの詞
【暗闇の】Perso. ダンテの『コンヴィヴィオ』第四卷二〇の一四―五に曰く、ペルソは紫と黒とまじりてしかも黒勝てる色なり
九一― 三
ヘブライの古諺に曰、祈りの門は閉さるとも涙の門は閉されず
九七― 九
【邑】ラヴェンナ、アドリアティコ海濱にあり、ダンテ時代にはこの町今よりもなほ海に近かりきといふ
【ポー】イタリア最大の川、ラヴェンナの北にあたりてアドリアティコ海に入る
【從者ら】多くの支流
一〇〇―一〇八 
三聯みな Amor(戀)なる一語にはじまる
【そのさま】ジャンチオットの刃にかゝりてこの身の魂より奪はれしさま
ムーア博士の引用せるフォスコロの説にてはこのさきに三の條項あり、乃ち、(一)死を招くにいたれる事情(二)死の急にして悔ゆるに暇なかりし事(三)殺害てふ蠻的行爲
【今猶】この戀今猶わが心を離れじ
【カイーナ】アダムの子にして弟アベルを殺せるもの(創世記四・八)、第九の地獄第一の圓はカインに因みてカイーナの名を得たる處なればこの獄に下り來るをカイーナ待つといへり、ジャンチオットの死せるは一三〇四年にて『神曲』の時なる一三〇〇年には猶存命せるなり
一二一―一二三
【汝の師】ウェルギリウス、古註曰、ウェルギリウスは願ひありてしかも望みなきリムボに止まり生時の光榮を囘顧し自己の經驗によりてかゝる苦患を味ひしると
一二七―一二九
【ランチャロット】ランスロット、『アーサー物語』(六七―九行註參照)にみゆる圓卓武士の一人にてアーサーの妻ギニヴァーを慕へるもの
【おそるゝこと】戀をそれと知らぎりしさきなれば本讀の危險なるべきを思はざりしなり
一三三―一三五
【微笑】ゑみを湛へし王妃の口
一三六―一三八
【ガレオット】王妃ギニヴァーとランスロットの不義の取持をなせるもの、昔のガレオットの如くこの物語と作者とは我等を罪に陷らしめきとの意
一三九―一四一
【一の魂】フランチェスカ


    第六曲

第三の地獄は飮食の慾に耽りし者の罰せらるゝ處なり、鬼チェルベロ雨雪と共に彼等を苛責す、こゝにフィレンツェのチヤッコなる者ありダンテを認めて之を呼び、近くその郷土に起るべき黒白兩黨の爭ひをかたる
一―三
ダンテが失神せる間に第二の地獄より第三の地獄におくられしことさきにアケロンテの川を越えし場合と同じ
【所縁】パオロはフランチェスカの義弟にあたる
七―九
【法と質】雨の落ちる度及び雨の成立に變化なく、詛ひの雨間斷なく降りくだるをいふ
一三―一五
【チェルベロ】ケルベロス、神話に出づ、地獄の門を守る怪犬、頭三ありて尾は蛇なり
一六―一八
【噛み】異本、皮剥ぎ
二二―二四
【蟲】姿の忌むべく怒るべきをいへるなり、他の生物を蟲とよべること聖書に例多し(イザヤ、四一・一四、詩篇二二・六等參照)
三四―三六
あゝ姿のほか凡て空しき魂よ(淨、二・七九)
されど地、三二にはダンテがボッカといへる罪人の頭を蹴りまたその毛髮を拔きしことあり(七八行及び一〇三行以下)
三七―三九
【ひとり】チヤッコ、フィレンツェの人にてボッカッチョが食をたしなむこと何人にも劣らじといへるものなり
四〇―四二
【わが毀たれぬ】チヤッコいまだ死なざるさきにダンテ生れしをいふ(或曰、チヤッコは一二八六年に死すと)
四九―五一
【汝の邑】フィレンツェ、黒白兩黨の爭ひ皆權勢の嫉みより起れり
五二―五四
【チヤッコ】或人はこれを食を貪るを嘲りて呼べる綽名(豚の義)なりといひ或人はジャコモの略名といひ或人は普通の家名にてフィレンツェには今もチヤッキ家なるものありといへり
五八―六三
【もし知らば】ダンテは既に魂のよく未來を知るを聞きゐたればこの問を起せるなり(地、二・二五―七註參照)
【分れし邑】フィレンツェ
一二一五年この方フィレンツェはグエルフィ、ギベルリニの兩黨に分る、十三世紀の末グエルフィ黨、獨り權勢を得て爭亂一時鎭靜に歸せしもピストイアに生ぜし黒白兩黨の軋轢ひいて濁波をフィレンツェに揚げチェルキ、ドナーティ兩家の確執となり次第にその範圍をひろくし一三〇〇年の始めにいたりて遂に激烈なる黒白の爭ひをこゝに見るにいたれるなり
六四―六六
【長き爭ひ】チェルキ、ドナーティ兩家の互に敵視せるは一二八〇年にはじまれり、前者は白黨を後者は黒黨を率ゆ
【鄙の徒黨】ビアンキ(白黨)
チェルキ家はヴァル・ディ・シエヴェといふ片田舍より來れる粗野の民なりき
【敵を逐ふべし】一三〇一年五月ネーリ(黒黨)フィレンツェの市外に逐はる
六七―六九
【三年の間】原文、三の日輪の間に(地、二九・一〇五參照)すなはちチヤッコの語れる時より三年の間に
白黨の逐はるゝにいたりしは一三〇二年の四月四日にしてチヤッコの豫言は一三〇〇年の四月八日なれば誠はこの事二年の間に起れるなり、これにつきスカルタッチニ(G. A. Scartazzini)は曰く、ダンテのかく三年といへるは(一)三の數を好みて用ゐしによるか(二)歴史傳記と異なり正確なる日子を豫言に附するをふさはしからずと思へるによるか(三)白黨が最後の迫害を受けしは一三〇二年の十月なればこれに基づきてかくしるせるか云々
【操縱《あやな》すもの】法王ボニファキウス八世、當時未だあらはに黒黨を助くるに至らず黒白兩黨の間に立ちて巧みにこれをあやつりフランスのシャルル・ド・ヴアロア(フランス王フィリップ四世の弟)のフィレンツェに至るを待てり
七〇―七二
【憤り】或ひは恥
七三―七五
【義者二人】何人を指せるや不明なり
さきに、いま操縱《あやな》すものといひこゝに義者二人ありといふ、チヤッコは未來を知るのみならずまたよく現在をも知るに似たり(地、一〇・一〇〇―一〇二註參照)
七九―八一
【ファーリナータ】(地、一〇・三一―三註參照)
【テッギアイオ】(地、一六・四〇―四二註參照)
【ヤーコポ・ルスティクッチ】(地、一六・四三―五註參照)
【アルリーゴ】アルリーゴの事この後に見えず、註者多くは之をもてブォンデルモンテの殺害に與れるものゝ一人なるべしといふ(地、二八・一〇六―八註參照)
【モスカ】(地、二八・一〇六―八註參照)
以上皆當時世に知られしフィレンツェ人
【善を行ふ】市政に關する(地、一六・三―一八及び五八―六〇參照)
八八―九〇
一切の望みなき地獄の魂その慰藉をたゞ知人の記憶に求むるのみ(地、二七―六四―六註參照)
九一―九三
【盲】汚泥の上にうつむき伏して見ることをえざる暴食者
九四―九六
【喇叭ひゞくまで】世界審判の日來るまで(マタイ、二四・三一)
【仇なる權能】諸惡の敵なるキリスト、人類の罪を定めんために來るなり
九七―九九
審判の日いたれば魂ヨサファットの溪にゆきて再び肉體の衣をうけ永遠きはみなき刑罰の宣言をきくべし(地、一〇・一一―二及び三の一〇三以下參照)
一〇六―一〇八
【汝の教】アリストテレスの教
一〇九―一一一
【その後】天使の喇叭ひゞきし後即ち最後の審判の後
靈肉相合して人はじめて全し、されど此等の罪人は魂すでに全からねばたとひ肉を得るも眞の完全にいたれりといふをえす、たゞ肉を離れし時に比すれば完全に近きが故に審判の後の苦しみは從つて前よりも深し
一一五
【プルート】ハデス、神話にいづる富の神なり、財寶の慾は世界人類の平和を亂し諸惡の源となるものなれば大敵といへり


    第七曲

兩詩人第四の地獄の入口にいたりてプルートを見、のち獄内に進む、この獄二に分たれ一には貪り貯へし者一には妄りに費せる者罰せらる、導者は命運を論じつゝダンテと共に此處を過ぎて第五の地獄にくだり忿怒の罪を犯せる者スティージェの沼泥濘の中にひたりて相爭ふをみる
一―三
【パペ・サタン・パペ・サタン・アレッペ】〔Pape` Sata`n, Pape` Sata`n aleppe !〕 怒れるプルートの詞、義不明
七―九
【狼】貪りをあらはすこと地、一・四九と同じ
一〇―一二
【ミケーレ】ミカエル、天使の長(ユダ、九)、魔軍と戰ひこれに勝つ(默示録一二・七―九)
【非倫】strupo(姦淫、強姦)、ルキフェル一味の魔軍が慢心を起して神に背くにいたれること
神と人との關係を男女の關係によりてあらはせること聖書に例多し(詩篇、七三・二七、イザヤ、一・二一等)
一六―一八
【第四の坎】第四の地獄
一九―二〇
【誰ぞ】汝正義にあらずして誰ぞ
二二―二四
【カリッヂ】カリブディス。ホメロス、ウェルギリウス、オウィディウス等の詩に見えて名高き渦卷、メッシナ海峽(イタリア、シケリア間)にあり、イオニオ海の潮とチレニア海の潮(逆浪)とうちあひて波荒く古より航海の難所たり
【リッダ】大勢にて舞ひめぐる舞踏の一種
二八―三〇
第四の地獄には貪る者と費す者と同一の罰を受く、圈二に等分せられその一乃ち兩詩人の左には貪る者(三八―九行)同じく右には費す者あり、罪人等胸にて重荷をまろばしつゝ各※[#二の字点、1−2−22]その半圈を來往し半圈の兩端なる分岐點にいたれば彼此こゝにうちあひ、これと同時に費す者は貪る者にむかひて何ぞ貪り貯ふるやと罵り貪る者は費す者にむかひて何ぞ漫りに費すやと難じ各※[#二の字点、1−2−22]踵をめぐらして一端にむかひかくして限りなくその觸[#底本では一字あき]をくりかへすなり
三一―三三
【歌】何ぞ溜むるや云々なる罵詈の叫び
三七―三九
【僧】cherci 僧侶たると俗僧たるとを問はずすべて寺院に屬する者をいふ
四〇―四二
【ほどよく】一方は費すべきに費さず一方は費すべからざるに費せるなり
四六―四八
【カルディナレ】寺院の高官、七十人相集まりてローマの聖團を組織し法王選擧の權を有す、當時寺院に屬するものゝ貪婪なること俗衆に比して更に甚しきをいへるなり
五五―五七
【二の】半圈の兩端なる
【手を閉ぢ】固く握り
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