、師は我に示して口を噤ましめ、また身をその前にかゞめしむ 八五―八七
あゝその憤りいかばかりぞや、かれ門にゆき、支ふる者なければ一の小さき杖をもてこれをひらけり 八八―九〇
かくて恐ろしき閾の上よりいふ、あゝ天を逐はれし者等よ、卑しき族《うから》よ、汝等のやどす慢心はいづこよりぞ 九一―九三
その目的《めあて》削《そ》がるゝことなく、かつしば/\汝等の苦患《なやみ》を増せる天意に對ひ足を擧ぐるは何故ぞ 九四―九六
命運に逆ふ何の益ぞ、汝等のチェルベロいまなほこれがため頤《おとがひ》と喉《のんど》に毛なきを思はずや 九七―九九
かくて彼我等に何の言だになく汚れし路をかへりゆき、そのさまさながらほかの思ひに責め刺され 一〇〇―
おのが前なる者をおもふに暇なき人のごとくなりき、聖語を聞いて心安く、我等足を邑《まち》のかたにすゝめ ―一〇五
戰はずして内に入りにき、我はまたかゝる砦《とりで》の内なるさまのいかなるやをみんことをねがひ 一〇六―一〇八
たゞちに目をわがあたりに投ぐれば、四方に一の大なる廣場《ひろには》ありて苦患《なやみ》ときびしき苛責を滿たせり 一〇九―一一一
ローダーノの水澱むアルリ、またはイタリアを閉してその境を洗ふカルナーロ近きポーラには 一一二―一一四
多くの墓ありて地に平らかなる處なし、こゝもまた墓のためにすべてかくの如く、たゞ異なるはそのさまいよ/\苦《にが》きのみ 一一五―一一七
そは多くの焔墓の間に散在して全くこれを燒けばなり、げにいかなる技工《わざ》といへどもこれより赤くは鐡《くろがね》を燒くを需《もと》めぬなるべし 一一八―一二〇
蓋は悉く上げられ幸《さち》なき者苦しむ者にふさはしきはげしき歎聲《なげき》内より起れり 一二一―一二三
我、師よ、これらの墓の中に葬られ、たゞ憂ひの歎息《ためいき》を洩すのみなるこれらの民は何なりや 一二四―一二六
彼我に、邪宗の長《をさ》等その各流の宗徒とともにこゝにあるなり、またこれらの墓の中には汝の思ふよりも多くの荷あり 一二七―一二九
みな類にわかちて葬られ、塚の熱度一樣ならず、かくいひて右にむかへり 一三〇―一三二
我等は苛責と高壘の間を過ぎぬ 一三三―一三五
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   第十曲

さて城壁と苛責の間のかくれたる路に沿ひ、わが師さきに我はその背に附きて進めり 一―三
我曰ふ、あゝ心のまゝに我
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