おぼえず、これわが目はわが全心を頂もゆる高き城樓《やぐら》にひきよせたればなり 三四―三六
忽ちこゝに血に染みていと凄き三のフーリエ時齊しくあらはれいでぬ、身も動作《ふるまひ》も女性《によしやう》のごとく 三七―三九
いと濃き緑の水蛇《イドラ》を帶とす、小蛇チェラスタ髮に代りてその猛き後額《こめかみ》を卷けり 四〇―四二
この時かれ善くかぎりなき歎きの女王の侍婢《はしため》等を認めて我にいひけるは、兇猛なるエーリネを見よ 四三―四五
左なるはメジェラ右に歎くはアレットなり、テシフォネ中にあり、斯く言ひて默せり 四六―四八
彼等各※[#二の字点、1−2−22]と爪をもておのが胸を裂き掌《たなごゝろ》をもておのが身を打てり、その叫びいと高ければ我は恐れて詩人によりそひき 四九―五一
俯《うつむ》き窺《うかゞ》ひつゝみないひけるは、メヅーサを來らせよ、かくして彼を石となさん、我等テゼオに襲はれて怨みを報いざりし幸《さち》なさよ 五二―五四
身をめぐらし後《うしろ》にむかひて目を閉ぢよ、若しゴルゴンあらはれ、汝これを見ば、再び上に歸らんすべなし 五五―五七
師はかくいひて自らわが身を背かしめ、またわが手を危ぶみ、おのが手をもてわが目を蔽へり 五八―六〇
あゝまことの聰明《さとり》あるものよ、奇《くす》しき詩のかげにかくるゝをしへを見よ 六一―六三
この時既にすさまじく犇《ひし》めく物音濁れる波を傳ひ來りて兩岸これがために震へり 六四―六六
こはあたかも反する熱によりて荒れ、林を打ちて支ふるものなく、枝を折り裂き 六七―
うち落し吹きおくり、塵を滿たしてまたほこりかに吹き進み、獸と牧者を走らしむる風の響きのごとくなりき ―七二
かれ手を放ちていひけるは、いざ目をかの年へし水沫《みなわ》にそゝげ、かなた烟のいと深きあたりに 七三―七五
たとへば敵なる蛇におどろき、群居《むれゐ》る蛙みな水に沈みて消え、地に蹲まるにいたるごとく 七六―七八
我は一者《ひとり》の前を走れる千餘の滅亡《ほろび》の魂をみき、この者|徒歩《かち》にてスティージェを渡るにその蹠《あしうら》濡るゝことなし 七九―八一
かれはしば/\左手《ゆんで》をのべて顏のあたりの霧をはらへり、その疲れし如くなりしはたゞこの累《わづらひ》ありしためのみ 八二―八四
我は彼が天より遣はされし者なるをさだかに知りて師にむかへるに
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