二
我は見んとて身を伸べて橋の上に立てり、さればもし一の大岩をとらへざりせば押さるゝをもまたで落ち下れるなるべし 四三―四五
導者はわがかく心をとむるをみていひけるは、火の中に魂あり、いづれも己を燒くものに卷かる 四六―四八
我答へて曰ひけるは、わが師よ、汝の言によりてこの事いよ/\さだかになりぬ、されど我またかくおしはかりて既に汝に 四九―
エテオクレとその兄弟との荼毘《だび》の炎の如く上方《うへ》わかれたる火につゝまれてこなたに來るは誰なりやといはんとおもひたりしなり ―五四
彼答へて我に曰ふ、かしこに苛責せらるゝはウリッセとディオメーデなり、ともに怒りにむかへるごとくまたともに罰にむかふ 五五―五七
かの焔の中に、彼等は門を作りてローマ人《びと》のたふとき祖先をこゝよりいでしめし馬の伏勢《ふせぜい》を傷《いた》み 五八―六〇
かしこにアキルレのためにいまなほデイダーミアを歎くにいたらしめし詭計《たくみ》をうれへ、またかしこにパルラーディオの罰をうく 六一―六三
我曰ふ、彼等かの火花のなかにて物言ふをえば、師よ、我ひたすらに汝に請ひまた重ねて汝に請ふ、さればこの請ひ千度《ちたび》の請ひを兼ねて 六四―六六
汝は我に角《つの》ある焔のこゝに來るを待つを否むなかれ、我わが願ひのためにみたまふ如く身をかなたにまぐ 六七―六九
彼我に、汝の請ふところ甚だ善し、この故に我これを容る、たゞ汝舌を愼しめ 七〇―七二
我既に汝の願ひをさとりたれば語ることをば我に任《まか》せよ、そは彼等はギリシア人《びと》なりしがゆゑに恐らくは汝の言を侮るべければなり 七三―七五
焔近づくにおよびて導者は時と處をはかり、これにむかひていひけるは 七六―七八
あゝ汝等二の身にて一の火の中にあるものよ、我生ける時汝等の心に適ひ、高き調《しらべ》を世に録《しる》して 七九―
たとひいさゝかなりとも汝等の心に適へる事あらば、請ふ過ぎゆかず、汝等の中ひとり路を失ひて後いづこに死處をえしやを告げよ ―八四
年へし焔の大いなる角、風になやめる焔のごとく微《かすか》に鳴りてうちゆらぎ 八五―八七
かくて物いふ舌かとばかりかなたこなたに尖《さき》をうごかし、聲を放ちていひけるは 八八―
一年《ひとゝせ》あまりガエタ(こはエーネアがこの名を與へざりしさきの事なり)に近く我を匿《かく》せしチルチェと別れ去れる時 ―九
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