ず、心をとめてわがこゝに説きいづる事をきくべし 九四―九六
オヴィディオもまた默してカードモとアレツーザの事をかたるなかれ、かれ男を蛇に女を泉に變らせ、之を詩となすともわれ羨まじ 九七―九九
そは彼|二《ふたつ》の自然をあひむかひて變らしめ兩者の形あひ待ちてその質を替ふるにいたれることなければなり 一〇〇―一〇二
さて彼等の相應ぜること下の如し、蛇はその尾を割きて叉《また》とし、傷を負へる者は足を寄せたり 一〇三―一〇五
脛《はぎ》は脛と股《もゝ》は股と固く着き、そのあはせめ、みるまにみゆべき跡をとゞめず 一〇六―一〇八
われたる尾は他の失へる形をとりて膚《はだへ》軟らかく、他のはだへはこはばれり 一〇九―一一一
我また二《ふたつ》の腕《かひな》腋下に入り、此等の縮むにつれて獸の短き二の足伸びゆくをみたり 一一二―一一四
また二の後足《あとあし》は縒《よ》れて人の隱すものとなり、幸なき者のは二にわかれぬ 一一五―一一七
烟|新《あらた》なる色をもて彼をも此をも蔽ひ、これに毛を生《は》えしめ、かれの毛をうばふあひだに 一一八―一二〇
此《これ》立ち彼《かれ》倒る、されどなほ妄執《まうしふ》の光を逸《そ》らさず、その下《もと》にておのおの顏を變へたり 一二一―一二三
立ちたる者顏を後額《こめかみ》のあたりによすれば、より來れる材《ざい》多くして耳|平《たひら》なる頬の上に出で 一二四―一二六
後方《うしろ》に流れずとゞまれるものはその餘《あまり》をもて顏に鼻を造り、またほどよく唇を厚くせり 一二七―一二九
伏したる者は顏を前方《まへ》に逐ひ、角を收《をさ》むる蝸牛の如く耳を頭にひきいれぬ 一三〇―一三二
またさきに一にて物言ふをえし舌は裂け、わかれし舌は一となり、烟こゝに止みたり 一三三―一三五
獸となれる魂はその聲あやしく溪に沿ひてにげゆき、殘れる者は物言ひつゝその後方《うしろ》に唾《つば》はけり 一三六―一三八
かくて彼新しき背を之にむけ、侶に曰ひけるは、願はくはブオソのわがなせしごとく匍匐《はらば》ひてこの路を走らんことを 一三九―一四一
我は斯く第七の石屑《いしくづ》の變り入替《いりかは》るさまをみたりき、わが筆少しく亂るゝあらば、請ふ人|事《こと》の奇なるをおもへ 一四二―一四四
またわが目には迷ひありわが心には惑ひありしも、かの二者《ふたり》我にかくれて逃ぐ
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