れよりほかの思ひ生れてわがさきの恐れを倍せり 一〇―一二
我おもへらく、彼等は我等のために嘲られてその怨み必ず大ならんとおもはるゝばかりの害《そこなひ》をうけ詭計《たくらみ》にかゝるにいたれるなり 一三―一五
若し怒り惡意に加はらば、彼等我等を追來り、その慈悲なきこと口に銜《くは》へし兎にむかひて酷《むご》き犬にもまさりぬべし 一六―一八
我は既に恐れのために身の毛悉く彌立《いよだ》つをおぼえ、わが後方《うしろ》にのみ心を注ぎつゝいひけるは、師よ、汝と我とを 一九―
直ちに匿《かく》したまはずば、我はマーレブランケをおそる、彼等既にうしろにせまれり、我わが心に寫しみて既に彼等の近きをさとる ―二四
彼、たとへばわれ鏡なりとも、わが今汝の内の姿をうくるよりはやく汝の外の姿を寫しうべきや 二五―二七
今といふ今汝の思ひは同じ働《はたらき》同じ容《かたち》をもてわが思ひの中に入り、我はこの二の物によりてたゞ一の策《はかりごと》を得たり 二八―三〇
右の岸もし斜にて次の嚢《ボルジヤ》の中にくだるをえば、我等は心にゑがける追《おひ》をまのかるべし 三一―三三
彼この策《はかりごと》を未だ陳べ終らざるに、我は彼等が翼をひらき、我等をとらへんとてほどなき處に來るを見たり 三四―三六
たとへば騷擾《さわぎ》に目覺めし母の、燃ゆる焔をあたりにみ、我兒をいだいてにげわしり 三七―
之を思ふこと己が身よりも深ければ、たゞ一枚の襯衣《したぎ》をさへ着くるに暇あらざるごとく、導者は忽ち我を抱き ―四二
堅き岸の頂より、次の嚢《ボルジヤ》の片側《かたがは》を閉す傾ける岩あるところに仰《あふの》きて身を投げいれぬ 四三―四五
粉碾車《こひきぐるま》をめぐらさんとて樋《ひ》をゆく水の、輻《や》にいと近き時といへどもそのはやきこと 四六―四八
侶《とも》にはあらで子の如く我をその胸に載せ、かの縁《へり》を越えしわが師にはおよばじ
その足|下《した》なる深處《ふかみ》の底にふれしころには彼等はやくも我等の上なる頂《いただき》にありき、されどこゝには恐れあるなし 五二―五四
彼等をえらびて第五の濠の僕《しべ》となせし尊き攝理は、かしこを離るゝの能力《ちから》を彼等より奪ひたればなり 五五―五七
下には我等|彩色《いろど》れる民を見き、疲れなやめる姿にて涙を流し、めぐりゆく足いとおそし 五八―六〇
彼等は
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