が、誰かこのベンチに腰をかけた人が棄てて行ったものらしい。そのまん中の処に掲《だ》してある特種らしい三段抜きの大きな記事が、私の眼に電気のように飛び付いて来た。
[#ここから3字下げ]
空家の怪死体[#本文より2段階大きな活字]
××踏切附近の廃屋の中で
死後約一個月を経た半骸骨
会社員らしい若い背広男[#本文より1段階大きな活字]
[#ここで字下げ終わり]
私はこの新聞記事を掴むと、夢中で公園を飛び出した。そうしてどこをどうして来たものか、××踏切り附近の思い出深い廃家の前に来て、茫然と突っ立っていた。
私はやがて、片手に掴んだままの新聞紙に気が付くと、慌てて前後を見まわした。そうして誰も通っていないのを見澄ますと、思い切って表の扉《と》を開いて中に這入《はい》った。
空家の中は殆んど真暗であった。その中を探り探り娘の死体を吊るしておいた奥の八畳の間《ま》へ来て、マッチを擦って見ると……。
「……………」
……それは紛《まご》う方ない私の死体であった。
バンドを梁《はり》に引っかけて、バットを啣えて、右手にマッチを、左手に新聞紙を掴んで……。
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