来まして、池の前に在る芝生の上に相並んで腰を下しましたが、そこで久方振りに口を利き合ってみますと、弟も私と同様に「一切を譲り渡す」という手紙を投函して行衛《ゆくえ》を晦《くら》ますつもりであったというのです……。ハルスカイン[#「ハルスカイン」は太字]家の血統が、こうして吾々二人のために咀《のろ》われて、あとかたもなく亡びて行くのをボンヤリ眺めている訳には行かない。……況《いわ》んやその跡に残った巨万の財産を二人で分配するなどいう事は堪えられ得る限りでない……レミヤ[#「レミヤ」は太字]を見殺しにして金持ちになる位なら、一思いに死んだ方が増しではないか……と眼を真赤にしていうのです。
 私はそういう弟の顔を見ているうちに胸が一パイになってしまいました。そうして昔にも増した友情を回復しました二人はその芝生の上で手を取り交《か》わして、膝を組み合わせながら色々と善後策を協議しましたが、イクラ友情を回復してもハルスカイン[#「ハルスカイン」は太字]家の婿定めは依然として不可能で、結局は二人がかりでレミヤ[#「レミヤ」は太字]を見殺しにするより外に方法はないのです。
 二人はそこで又、幾度とな
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