らん。エライものだナアと思って感心していた気持ちなぞが、探偵小説愛好慾の芽生えだったかも知れません。
 動物園に行って、奇妙な恰好をして生きている動物たちの気持ちをアッケラカンと考えてみたり、郵便屋さんが家々に投げ込んで行く手紙が、どこから来るのか一々たしかめてみたくなったり、千金丹売りや新四国参りのお遍路さんは、どこから来てどこへ帰るのかと、うるさくお祖母《ばあ》さんに尋ねたのもその前後の事でした。
 又、尋常科三四年頃、小国民とか、少年園とかいう雑誌があった。科学めいた怪奇談や、世界珍聞集みたようなものが載っておりましたが、これも探偵趣味の芽生えを培《つちか》ったに違いありません。そのほか少年世界のキプリングもの、磯萍水《いそひょうすい》や江見水蔭《えみすいいん》の冒険もの、単行本の十五少年漂流記なぞも無論その頃の愛読書で、どこの発行でしたか、何々少年と標題した飜訳の少年冒険談が、全集式の単行本によって出ていたようですが、そんなものも押川|春浪《しゅんろう》の冒険談と一緒に二十冊ばかり虎の子のようにしておりました。
 そのうちに中学に這入《はい》って涙香ものに喰い付いた訳ですが、そ
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