……………………今一度あたりの様子をうかがいつつ、左右のカフスの間、その他、衣服の各所から、宝石を抓《つま》み出して、一ツ一ツインキ瓶の中に沈めおわる。
……………………悦《よろこ》ばしげに両手を揉み合わせつつ電燈をつける。
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●女中の手登場……『丸の内私立探偵局|連水晃《つれみずあきら》』と刷った名刺を主人の手に渡す。
◇悪人の手…………その名刺を裏返したりヒネクッタリして困惑した表情の後《のち》「こちらへお通し申せ」という手つきをする。
●女中の手…………恭《うやうや》しく握り合ったまま退場…………。
◇悪人の手…………女中が遠ざかるにつれてブルブルとふるえつつ、立ち上るこなし…………名刺を握り潰そうとして、又ハッと吾にかえる。
[#ここから1字下げ、折り返して3字下げ]
……………………間もなく慌てて机に帰り、ペンを取り上げ、レターペーパーを拡げて手紙を書き初める。
[#ここから3字下げ]
「拝啓 本日は光栄ある晩餐会に御招待を受け、格別の御厚遇に預り、殊に、朝野の名士数氏に御紹介を賜わり候事、面目これに過ぎ……」
[#ここで字下げ終
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