から薄あかり……。
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◇美人の手…………何か快活らしい曲を弾いている。
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……………………時々手を止めてハンカチで涙を拭うようす……。
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――そのうしろから突然にパッと光線がさす――
[#ここで字下げ終わり]
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◇美人の手…………ハッとしてハンカチを取り落す。
●探偵の手…………懐中電燈をさしつけつつ近寄る。
◇美人の手…………わなわなと慄え出す。
●探偵の手…………ピンセットで物を抓《つま》み上げる真似をして見せる。
◇美人の手…………宝石の包みを差し出しつつ、わななき悲しむ。
●探偵の手…………包みを受け取って中味を検め、固く結び直して無造作にポケットに入れる。
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……………………くら暗の中に、拇指《おやゆび》を出して見せ、食指とくっつけ合わせて「お前と共謀だろう」と詰問する体《てい》。
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◇美人の手…………烈しくわななきつつ左右に振って否定し「ピアノを弾いていた。何も知らない」と主張する。
●探偵の手…………懐中電燈をつけ、ピアノのキーの上に落ち散った涙を一ツ一ツに照し出すうち、指先が感動して微かにふるえ出す。
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……………………ともったままの懐中電燈をしずかにピアノのキーの上に置き、わななく女の白い手をハンカチごと両手で強く握り締め「御安心なさい」という風に軽くたたいて慰撫する。
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――その上から涙がポトポトと滴《した》たりかかる――
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底本:「夢野久作全集3」ちくま文庫、筑摩書房
   1992(平成4)年8月24日第1刷発行
底本の親本:「日本探偵小説全集 第十一篇 夢野久作集」改造社
   1929(昭和4)年12月3日発行
初出:「猟奇」
   1928(昭和3)年11月号
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2005年9月10日作成
青空文庫作成ファイル:
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