い…………
………と友達が来る

号外の真犯人は
俺だぞ………と
人ごみの中で
怒鳴つてみたい

飛びだした猫の眼玉を
押しこめど
ドウしても這入らず
喰ふのをやめる

メスの刃が
お伽ばなしを読むやうに
ハラワタの色を
うつして行くも

五十銭貰つて
一つお辞儀する
盗めば
お辞儀せずともいゝのに

人間の屍体を見ると
何がなしに
女とフザケて笑つてみたい

  *血潮したゝる

闇の中に闇があり
又闇がある
その核心から
血潮したゝる

骸骨が
曠野をひとり辿り行く
行く手の雲に
血潮したゝる

教会の
彼の尖塔の真上なる
青い空から
血しほしたゝる

洋皿のカナリアの絵が
真二つに
割れたとこから
血しほしたゝる

すれ違つた白い女が
ふり返つて笑ふ口から
血しほしたゝる

真夜中の
三時の文字を
長針が通り過ぎつゝ
血しほしたゝる

水薬を
花瓶に棄てゝアザミ笑ふ
肺病の口から
血しほしたゝる

日の影が死人のやうに
縋り付く倉の壁から
血しほしたゝる

たはむれに
タンポヽの花を引つ切れば
牛乳のやうな血しほしたゝる

大詰めの
アンチキシヤウの美くしさ
赤いインキの血しほし
前へ 次へ
全19ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング