夕日を見てゐる

自殺しに吾が来かゝれば
白い猫が線路の闇を
ソツと横切る

春風が
先づ探偵を吹き送り
アトから悠々と犯人を吹き送る

涯てしなく並ぶ土管が
人間の死骸を
一つ喰べ度いと云ふ

冬空にヂン/\と鳴る電線が
死報の時だけ
ヒツソリとなる

犯人の帽子を
巡査が拾ひ上げて
又棄てゝ行く
春の夕暮

血のやうに黒いダリヤを
凝視して少女が
ホツとため息をする

山の奥で仇讐同志がめぐり合つた
誰も居ないので
仲直りした

  *     *     *

殺人狂が
針の無い時計を持つてゐた
殺すたんびにネヂをかけてゐた

脳髄が二つ在つたらばと思ふ
考へてはならぬ
事を考へるため

日の光り
腹の底まで吸ひ込んで
骨となりゆく行路病人

何もかも性に帰結するフロイドが
天体鏡で
女湯を覗く

  *     *     *

風に散る木の葉の中の
悪党が
池の向側に高飛びをする

囚人が
アハハと笑つてなぐられた
アハハと笑つて囚人が死んだ

中風の姑は何でも知つてゐる
死に度いと思ふ
妾の心まで

北極に行つて帰らぬ人々が
誰よりもノンキに
欠伸してゐる

石コロが広
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