ンと何か割れた音
 イヒヽヽヽヽ
……と……俺が笑ふ声

白い乳を出させようとて
 タンポヽを引き切る気持ち
彼女の腕を見る

棺の中で
 死人がそつと欠伸《あくび》した
その時和尚が咳払ひした

抱きしめる
 その瞬間にいつも思ふ
あの泥沼の底の白骨

ニセ物のパスで
 電車に乗つてみる
超人らしいステキな気持ち

青空の隅から
 ジツト眼をあけて
俺の所業を睨んでゐる奴

自転車の死骸が
 空地に積んである
乗つてゐた奴の死骸も共に

闇の中から血まみれの猿が
 ヨロ/\とよろめきかゝる
俺の良心

監獄に
 はいらぬ前も出た後も
同じ青空に同じ日が照つてゐる

白い蝶が線路を遠く横切つて
 汽車がゴーと過ぎて
血まみれの恋が残る

見てはならぬものを見てゐる
 吾が姿をニヤリと笑つて
ふり向いて見る

真夜中に
 心臓が一寸休止する
その時にこはい夢を見るのだ

枕元の花に薬をそゝぎかけて
 ほゝゑむでねむる
肺病の娘

倉の壁の木の葉が
 幽霊の形になつて
生血がしたゝる心臓が
切り出されたまゝ

  *     *     *

けふも沖が
 あんなに青く透いてゐる
  誰か溺れて死んだだんべ

水の底で
 胎児は生きて動いてゐる
  母体は魚に喰はれてゐるのに

日が暮れかゝると
 わが首を斬る刃に見えて
  生血がしたゝる監房の窓

あの娘を空屋で殺して置いたのを
 誰も知るまい
  藍色の空

地平線になめくぢのやうな雲が出て
 見まいとしても
  何だか気になる

血だらけの顔が
 沼から這ひ上る
  俺の先祖に斬られた顔が

唖の女が
 口から赤ん坊生んだゲナ
  その子の父の袖をとらへて

ドラツグの蝋人形の
 全身を想像してみて
  冷汗ながす

自分が轢いた無数の人を
 ウツトリと行く手にゑがく
  停電の運転手 動いてゐる
 さても得意気にたつた一人で

暗の中で
 俺と俺とが真黒く睨み合つた儘
  動くことが出来ぬ

すれちがつた今の女が
 眼の前で血まみれになる
  白昼の幻想

自惚《うぬぼ》れの錯覚すなはち恋だから
 子供は要らない
  ザマア見やがれ

ピストルが俺の眉間を睨みつけて
 ズドンと云つた
  アハハのハツハ

毎日毎日
 向家の屋根のペンペン草を
  見てゐた男が狂人であつた

夏木立ヒツソリとして
 ぬす人の心の
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