を冠つたら
殺した友の顔を思ひ出した
ずつと前殺した友へ
根気よく年賀状を出す
愚かなる吾
広重は
惨殺屍体の上にある
真青な空の色を記憶した
煉瓦塀を仰げば
青い/\空
殺人囚がホツとする空
病死した友の代りに返事した
先生は知らずに
出席簿を閉ぢた
秋まひる静かな山路に
堪へ兼ねて追剥《おいはぎ》を
した人は居ないか
人頭蛇を生ませてみたいと
思ひつゝ女と寝てゐる
若い見世物師
* * *
青空に突き刺さり/\
血をたらす
南|仏蘭西《フランス》の寺の尖塔
夜の風に
紙片が地を匍ふて行く
死人の門口でピタリと止まる
真鍮のイーコン像から
蝋細工のレニンの死体へ
迷信転向
*白骨譜
死刑囚は
遂に動かずなり行けど
栴檀《せんだん》の樹の蝉は啼きやまず
神様の鼻は
真赤に爛れてゐる
だから姿をお見せにならないのだ
一瓶の白き錠剤
かぞへおはり
窓の青空じつと見つむる
浜名湖の鉄橋渡る列車より
フト……
飛降りてみたくなりしかな
天井の節穴
われを睨むごとし
わが旧悪を知り居るごとし
青空は罪深きかよ
虻《あぶ》や蜻蛉
お倉の白壁にぶつかつて死ぬ
盲人がニコ/\笑つて
自宅へ帰る
着物の裾に血を附けたまゝ
よそのヲヂサンが
汽車に轢かれて死んでたよ
帰つて来ないお父さんかと思つたよ
将軍塚
将軍の骨が棺の中で錆びた刀を
抜きかけてゐた
* * *
青空はブルーブラツク
三日月は死の唄を書く
ペン先かいな
大理石の伽藍の如き頭蓋骨が
荘厳に微笑む
南極の海
ほの暗く
はるかな国離れ来て
桐の若葉に
さゆらぐ悪魔
* * *
わが罪の思ひ出に似た
貨物車が犇きよぎる
白の陽の下
ぬかるみは果てしもあらず
微笑して
彼女の文を千切り棄てゆく
ニヤ/\と微笑しながら跟《つ》いて来る
もう一人の我を
振返る夕暮
* * *
日も出でず
月も入らざる地平線が
心の涯にいつも横たはる
うなだれて
小暗き町へ迷ひ入り
獣の如く呻吟してみる
社長室の片隅に
黒く凋れ行く
赤いタイピストの形見のチユーリツプ
* * *
体温器窓に透かして眺め入る
死に度いと思ふ
心を透かし見る
タツタ一つ
罪悪を知らぬ瞳があつた
残
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