のだから、愚図愚図《ぐずぐず》すると時間の余裕が無くなるかも知れない……だから俺はここに立佇《たちど》まって考えていたのだ。国道へ出て本通りを行こうか、それとも近道の線路伝いにしようかと迷いながら突立っていたものではないか……。
 ……ナーンだ。何でもないじゃないか……。
 ……そうだ。とにかく鉄道線路を行こう。線路を行けば学校まで一直線で、せいぜい三|基米《キロ》ぐらいしか無いのだから、こころもち急ぎさえすれば二十分ぐらいの節約は訳なく出来る……そうだ……鉄道線路を行こう……。
 彼はそう思い思い今一度ニンマリと青黒い、髯《ひげ》だらけの微苦笑をした。三角形に膨《ふく》らんだボクスの古鞄《ふるかばん》を、左手にシッカリと抱き締めながら、白い踏切板の上から半身を傾けて、やはり霜を被《かぶ》っている線路の枕木の上へ、兵隊靴の片足を踏み出しかけた。
 ……が……又、ハッと気が付いて踏み留《とど》まった。
 彼はそのまま右手をソット額《ひたい》に当てた。その掌《てのひら》で近眼鏡の上を蔽《おお》うて、何事かを祈るように、頭をガックリとうなだれた。
 彼は、彼自身がタッタ今、鉄道踏切の中央に立
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