の祖父は腹切って失せたではないか。……のう。そちが詰腹切らせたではないか」
「お祖父様にこの絵が……」
「ナニ。祖父にこの絵を見せたいと云うか」
肩を震わしてうなずいた与一は、ワッとばかりに絵の上に泣き伏した。
「コリャコリャ、勿体ない。御直筆の上に……」
と淵老人が与一を引起しかかった。
「棄ておけッ」
と忠之が突然に叱※[#「口+它」、第3水準1−14−88]した。何事がお気に障ったか……と思う間もなく、厚く襲《かさ》ねた座布団の上から臂を伸ばした忠之は、与一の襟元を無手と引掴《ひきつか》んだ。力任せにズルズルと引寄せて膝の上に抱え上げた。白|綸子《りんず》の両袖の間にシッカリと抱締めて、たまらなく頬ずりをした。
「……与一ッ。許せ……余が浅慮であったぞや……あったら武士を死なしたわい。許いてくれい、許いてくれい。これから祖父の代りに身共に抱かれてくれい。のう。のう……」
与一は忠之の首に縋り付いたまま思い切り声を放って泣いた。
「お祖父《じい》様、お祖父《じい》様。お祖父《じい》様ア……お祖父《じい》様ァ……お祖父《じい》様えのう……」
クシャクシャになったお墨付と馬の
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