なのです」
私がそう云ううちに、伯母の化粧した顔色が眼に見えて変化して来た。幾十歳の老婆のように皮膚が張力を失い、唇がわななき、眼の中に一パイ涙ぐんで来た。カップを持つ手がわなわなとふるえ出した。
「ですから御相談に来たのです。……サア……弟をどうしてくれますか」
「そ……それはもう妾《わたし》が引受けて……」
「口先ばかりではいけませんよ伯母さん。僕の眼の前でチャンとした方法を立てて下さい」
「待って……待って下さい。伯父様に一度御相談しないと……」
「馬鹿……その手を喰うと思うか。……この毒婦……」
「エッ、妾が……毒婦ですって……」
「毒婦だ毒婦だ……貴様は俺の伯父を唆《そその》かして、俺の両親の財産を横領させた上に生命《いのち》までも奪ってしまったろう……」
「アッ……そ……それは大変な貴方の思い違いです」
「ナ……ナニを今更ツベコベと……覚悟しろ……」
「アレッ……」
と叫ぶと同時に玉兎女史は、私の振上げた短刀の刃先をスリ抜けて、寝台の中に飛込んだ。玉虫色の羽根布団を頭から引っ冠ったが、私はこの羽根布団の下の人の形の胸のあたり眼がけて、グサッと短刀を突込んだ。
だが、不
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