土産《みやげ》であったという)がタッタ一つ立っているきりである。部屋の中に満ち満ちた香水の芳香がシンカンと静まり返って気が遠くなりそうである。
「ホホホホホホホホホ」
 思いがけない方向から思いがけない女の笑い声が聞えたので、私はビックリした。その方向に向き直ってキッと身構えた。
 部屋の右手の隅に七宝細工かと思われる贅沢な寝台が在る。金糸でややこしい刺繍の紋章を綾取《あやど》った緋色の帷帳《カーテン》がユラユラと動いたと思うとサッと左右に開いた。その中の翡翠《ひすい》色の羽根布団を押除《おしの》けて一つの驚くべき幻影がムクと起上った。
 玉虫色の夜会服を着た妖艶花のような美人……噂に聞いた……ブロマイドで見た……銀幕で見た……否。それ以上に若い、匂やかな生き生きした艶麗さ……私は、私の大動脈瘤が描きあらわす一つの幻覚ではないかと思った。コンナ素晴らしい幻影が見えるのは、黴毒が頭に来ているせいじゃないか知らんと思ったくらい蠱惑《こわく》的な姿であった。
「オホホホホホ。初めてお眼にかかります。妾《わたし》は伯父様に御厄介になっております玉兎で御座います」
 私は背後《うしろ》の低い緞子
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