たような感じである。窓が多くて無闇《むやみ》に明るいだけに、粗末な壁や、ホコリだらけの板張が一層浅ましい。
私は一渡り前後左右を見まわすと、その廊下の突当りに向って突進した。
事務室に居るという雲月斎玉兎女史こと、本名須婆田ウノ子を逃さないためだ。
廊下の突当りに事務室と刻んだ真鍮板を打付けた青ペンキ塗《ぬり》の扉《ドア》がある。その扉《ドア》を開こうとすると、黄色のワンピース……アダリーが、イキナリ私の右腕に飛付いてシッカリと獅噛《しが》み付いた。涙を一パイ溜めた眼で私を見上げた。
「アナタの伯母さんを殺してはイケマセン……」
私は愕然《がくぜん》となった。唖然となった。私の心の奥底の秘密を、どうしてアダリーが知っているのだろう。
私の舌が狼狽の余り縺《もつ》れた。
「馬鹿……ホントの……ホントの伯母さんじゃない。毒婦だ」
アダリーはイヨイヨシッカリと私の腕に絡み付いた。栗色の頭髪《かみ》を強く左右に振った。
「チガイマス……善い人です。私たちの恩人です」
私は呆れた。同時に狼狽した。左手に握っていた八百五十円の札束をイキナリ、アダリーのワンピースの襟元に押込んだ。
「
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