スッカリ気を呑まれたらしく生命《いのち》知らずの連中が六人とも顔を見交《みかわ》して眼を白黒さした。この印度人が尋常の人間でない事を感付いたらしい。私はイヨイヨ伯父に違いないと思った。スッカリ感心してしまった。
「……サア……どうです。一体いくら欲しいのですか。君等は……」
「……サ……三千円出せ」
「アハハハ。そんなに出せませぬ。今ここに八百五十円あります」
「畜生……そんな目腐《めくさ》れ金《がね》で俺達が帰れると思うか」
「ヘヘヘ。ここはビルデングの奥です。わかりましたか。ここはビルデングの奥ですよ。ピストルを撃っても往来までは聞えません。どんな取引でも出来ます。サア……お金か……血か……どちらがいいですか」
「血だッ……」
 と叫ぶと同時にステッキを提げた巨漢が右のポケットから黒い拳銃《ピストル》を取出した。
 その一|刹那《せつな》、私は印度人の前に大手を拡げて立塞《たちふさ》がった。……と思う間もなく背後《うしろ》の扉《ドア》から飛出したらしい、黄色いワンピースを着たアダリーが私の前に重なり合って突立った。私と印度人を庇護《かば》うつもりらしかった。
 巨漢は面喰ったら
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