どれもこれもスバラシイ理想的なものだったでしょう」
芳夫は無言でうなずいた。
「けれども、その計劃の第一着手として、理想的な美少女を令夫人に迎えることを、あなたは全く忘れておられました。あなたが百万円を得られると同時に、そうした立派な令夫人を迎えておられましたならば、あなたの百万円は一文も無意義に費されずに済んだでしょう」
青年芳夫の眼から熱い涙がハラハラと溢れ落ちた。高山名探偵はその顔を凝視しつつ、断乎として云い切った。
「すなわち……あなたから、あなたの百万円を奪い去ったものは、あなたの未来の夫人たるべき、その美少女です。あなたはその美少女から百万円を奪い返すべき権利があります」
六
中村芳夫は、高山名探偵の、こうした炯眼《けいがん》と推理力に心から嘆服《たんぷく》してしまった。涙と共に床の上にひれ伏した。
「どうぞ私と力を合わせて、その女を探して下さい。百万円の全部をあなたに捧げても構いませんから……」
名探偵は一議に及ばず引き受けた。
けれども芳夫青年から、百万円を奪い去ったであろうほどの、理想的な若い女性は容易に見つからなかった。稀に居るにはいたが
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