うように、高い高い笛の音が聞こえて来ました。その音が、この小さな島の中の、禽鳥《とり》や昆虫《むし》を一時に飛び立たせて、遠い海中《わだなか》に消えて行きました。
けれども、それは、私たち二人にとって、最後の審判の日の※[#「竹かんむり/孤」、第4水準2−83−54]《らっぱ》よりも怖ろしい響《ひびき》で御座いました。私たちの前で天と地が裂けて、神様のお眼の光りと、地獄の火焔《ほのお》が一時《いっとき》に閃《ひら》めき出たように思われました。
ああ。手が慄《ふる》えて、心が倉皇《あわて》て書かれませぬ。涙で眼が見えなくなります。
私たち二人は、今から、あの大きな船の真正面に在る高い崖の上に登って、お父様や、お母様や、救いに来て下さる水夫さん達によく見えるように、シッカリと抱き合ったまま、深い淵の中に身を投げて死にます。そうしたら、いつも、あそこに泳いでいるフカが、間もなく、私たちを喰べてしまってくれるでしょう。そうして、あとには、この手紙を詰めたビール瓶が一本浮いているのを、ボートに乗っている人々が見つけて、拾い上げて下さるでしょう。
ああ。お父様。お母様。すみません。すみません、すみません、すみません。私たちは初めから、あなた方の愛子《いとしご》でなかったと思って諦らめて下さいませ。
又、せっかく、遠い故郷《ふるさと》から、私たち二人を、わざわざ助けに来て下すった皆様の御親切に対しても、こんなことをする私たち二人はホントにホントに済みません。どうぞどうぞお赦《ゆる》し下さい。そうして、お父様と、お母様に懐《いだ》かれて、人間の世界へ帰る、喜びの時が来ると同時に、死んで行かねばならぬ、不倖《ふしあわせ》な私たちの運命を、お矜恤《われみ》下さいませ。
私たちは、こうして私たちの肉体と霊魂《たましい》を罰せねば、犯した罪の報償《つぐのい》が出来ないのです。この離れ島の中で、私たち二人が犯した、それはそれは恐ろしい悖戻《よこしま》の報責《むくい》なのです。
どうぞ、これより以上《うえ》に懺悔することを、おゆるし下さい。私たち二人はフカの餌食になる価打《ねうち》しか無い、狂妄《しれもの》だったのですから……。
ああ。さようなら。
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神様からも人間からも救われ得ぬ
[#地から2字上げ]哀しき二人より
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お父様
お母
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