ンカンな感じがしましたから……その時にこう云ってやったのです……。それは一応|尤《もっと》もな意見だが……しかし、もう親類と相談をしてきめてしまった事だから、今更変更するのは面白くないだろう……と……」
「なるほど……これも御道理《ごもっとも》ですね」
「そう云いますと、今度は品夫の奴がメソメソ泣き出して、ウンともスンとも返事をしなくなったんです」
「ヘエ……なるほど……」
「……様子が変ですから僕はいよいよ気になりましてね……何故《なぜ》泣くのかと云って無理やりに、根掘り葉掘り尋ねますと、やっとの事で白状したのです。……つまり妾《わたし》は、二十年|前《ぜん》に殺された、妾の実のお父さんの讐敵《かたき》を討たなければ結婚をしない決心だと云うので……イヤもうトンチンカンにも、時代錯誤にも、お話しにならない奇抜な返答なのですが、本人はそれでも頗《すこぶ》る付きの大真面目らしいので、僕はスッカリ面喰ってしまいました」
「ヘエ……それは……お驚きになったでしょう……」
「イヤもう、お話しするのも馬鹿馬鹿しい位ですがね……ですから僕も、始めは何かしら云い難《にく》い理由《わけ》があるのを隠すた
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