見えながら、その底には、やはり実松氏と同様の超自然的な性格を隠し持っていた……しかも大恩ある叔父を執念深く附け狙って殺すというような残忍冷酷を極めた、非良心的な先天性の所有者であり得た事が、科学的に証明されて来るのですよ。……いいですか……又、実松氏が極端な変人であると同時に、血腥《ちなまぐさ》い殺生《せっしょう》を唯一の趣味としていた因縁も、その血腥い殺生行為のアトで、異常な性的の昂奮を見せるという、変態的な性格も、その故郷の血族の絶滅している理由も……そうして現在の品夫が、二十年|前《ぜん》の殺人犯人に凝視されているという脅迫観念や、復讐をしなければ止まぬというような偏執狂《モノマニア》式の空想に囚《とら》われている原因も……何もかもがこの事件の核心となっているタッタ一ツの事実によって説明され得る……つまりT塚村の実松家は、ヒドイ精神病の系統であったと……」
相手の悽愴《せいそう》たる語気に呑まれて、急に赤くなり、又、青くなりつつ眼を瞠《みは》っていた黒木は、この時ヤッとの事でヘドモド坐り直した。両手をあげて迸《ほとばし》り出る健策の言葉を押し止めた。
「……イヤ……お待ち……お待ち下さい。ソ……それは貴方の誤解です。私はただ品夫さんのお父さんの事だけを申しましたので……」
「……否《いや》……チットも構いません。公然と僕達の結婚に反対されても構いません」
健策は断乎《だんこ》とした態度でこう云い切った。云い知れぬ昂奮に全身を震わせながら……。
「……たといドンナ事があろうとも、僕は品夫を殺さない決心ですから……品夫を見棄てる気は毛頭《もうとう》無いのですから、何でもハッキリ云って下さい。……実松一家は、そんな恐ろしい精神病の遺伝系統のために、その故郷で絶滅してしまっている。そうして僅《わず》かに残った一滴の血が、めぐりめぐって現在藤沢家を亡ぼすべく流れ込もうとしている。その一滴の血が……品夫だと云われるのですね」
「……………」
「藤沢家のためには、品夫を見殺しにした方が利益だと云われるのですね……貴方は……」
「……………」
「……………」
二人は青い顔を見合わせたまま、石のように凝固してしまった。……ちょうどその時に、扉《ドア》の外で何か倒れたような音がしたので……。
二人はハッとしながら同時に立ち上った。扉《ドア》に近い健策が大急ぎで把手《ハンド
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