モットーを文字通りに守り得る程の社交的人物でも、鼻ばかりは常に喜怒を表わしていなければならぬ筈のものでありましょうか。
フットライトの中に浮き出してあでやかに笑いまわる舞姫の鼻の表現のわびしさは、絶対に拭い除《の》ける事の出来ないものでしょうか。展望車の安楽椅子に金口《きんぐち》を輪に吹く紳士の鼻の淋しさは、何とも包む術《すべ》はないものでしょうか。リモシンのフクント硝子《ガラス》の裡《うち》に行く人をふり返らすボネットの蔭からチラリと見える白い鼻の愁い、悲壮な最後を遂げた名士の棺側に付添いながら金モール服揚々たる八の字鬚の誇り……これ等の表現は絶対的に不可抗力のあらわれとして諦められなければならないものでありましょうか。
鼻の表現は眼や口なんぞと同じように支配する事は絶対に出来ないものと決っているものでありましょうか。
もしこの鼻の表現を自由自在に使いこなして、如何なる出鱈目でも嘘っ八でも決して他人に看破されない位に充実した鼻の表現でもって、その真実である事を裏書きして行く事が出来るものがいるとしたら、その者は如何に恐るべき成功を世渡りの上に博する事が出来るでありましょうか。
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